亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

二人での飲み会


「君は俺に秘密を打ち明けてまで助けてくれた。俺も君を秘密の場所へ案内したい。そこで飲もう。美味い酒をご馳走するよ」

「え……」

 男は、マキラのベルト剣を拾って『いい剣だ』と渡してくれた。
 普段は武器を手放したままだなんて絶対にしないのに、どうしてか調子が狂っている。

「でも……秘密の場所?」

 そこで二人きりという事……少し警戒心も湧く。

「はは、君の強さはわかっているから、勝負など挑むことはしないさ。共闘した仲間として、一緒に飲もうじゃないか」

「共闘……私は何もしていないけど、そうね。秘密の場所? 楽しそう」

 マキラに何かしたいのであれば、助ける事などしなかっただろう。
 彼の笑顔に悪意はない。
 マキラの勘は当たるのだ。

「だろう? さっき置いてきた酒を拾って行こう。憲兵がもう来る」

「いやだ! 早く行きましょ!」

 大事にでもなって、ハルドゥーンの耳にでも入ると厄介だ。
 男は本当に、秘密の場所で飲むため河原に来たようでバスケットを持っていた。
 中には高級で有名な酒瓶が二本も入っているし、何やらつまみもあるようだ。
 万全の飲み支度。

 お祭りで盛り上がり、外で飲む者も多いが……秘密の場所とは?
 本当に不思議な男だ。
 
「……そういえば、貴方の名前は?」

「あぁ、そうだな。なんだか名前も知らない仲とは思えなくて、名乗っていなかったな」

「あ、私もだったわ……」

「いい。俺から名乗ろう。俺は……シィーン」

「私はマキラよ」

「綺麗な名だな」

「ふ、普通の名前よ」

 特別な意味も無い、自分でつけた偽名。
 ありふれた名前だから選んだ名前だ。
 
「似合っているよ」

「……ありがと」

 男は自然に、甘い言葉を言う。
 河川敷は更に暗くなって、シィーンは小さなランタンで道を照らす。
 
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