亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「すごく素敵な場所ね! 焚き火なんて久しぶり」

「焚き火は好きかい?」

「苦手だった時もあったんだけど、なんだか炎には心が慰められる事に気がついて……キャンドルを家では眺めるの」

 逃亡してすぐの頃は、山に入り洞窟で暮らした時期があった。
 あの頃の絶望を思い出すトラウマになっていると思っていたのだが、占い師としての仕事で飾り付けにはムードを出すキャンドルが必要だ。
 なのでアロマキャンドルから始め……自分で話したとおり、今では癒やされている。

「大丈夫か? キャンドルとはまた違うだろう」

「うん、大丈夫」

 シィーンは、豪快なように見えて自然に人に優しくする男だとマキラは思う。
 ソファにも座るように言われて、グラスを差し出された。

 焚き火に照らされたシィーンは、やはりよい男だった。
 精悍で、凛々しい瞳に、優しい微笑み。
 炎のような赤い髪に、黄金の交じる赤い瞳。
 金の腕輪が映える筋肉質な褐色の肌。
 
 力強い瞳に、一瞬見とれてしまう。

「乾杯だ。マキラ」

「えぇ、乾杯」

 酒が注がれた美しいグラスを渡される。
 先ほどまでの戦いが嘘のように、静かな河辺。
 二人で微笑みながら、初めての乾杯をした。

 そして、どれだけ時間が経っただろうか。

「あっはっはっは!! 美味いだろうー? どうだ飲め飲め!」

「本当に美味しいわ~!! ありがとう!! あは! こぼれるからー!!」

 二人の笑い声が夜空に響く。
 シィーンは酒が大好きらしく、マキラももちろんお酒は大好きだった。
 口元の薄布を少しずらして、酒を飲む。
 シィーンも豪快に、何杯めかもうわからない酒を飲み干した。

 出逢ったばかりの二人だが、お互いの身の上話など一切せずとも会話が楽しい。
 河の魚が跳ねたこと、流れ星が見えたこと、そんな事で二人一緒に笑ってしまう。

「はぁーあ、楽しいな」

「うん、とっても楽しいわ。誘ってくれてありがとう」

「いや、誘いにのってくれて礼を言うのはこっちだ」

 月を見ればもう、真夜中だ。
 大笑いした後に、ふっと二人で焚き火を見つめて沈黙……。

 ふっと、自然にシィーンがマキラの肩に手をまわした。
 先ほど寄り添った時のように、自然にマキラもシィーンの胸元にもたれた。
 沢山飲んで、二人とも酔っている。
 でも酔ってどうでもよくなっているわけではない、彼のシトラスムスクの香りが心地よい。
 こんなことをするなんて信じられないのに、心地よくてもたれてしまう。

「マキラ……もう、あんな危ない真似はするんじゃない。観光客が大勢押し寄せて今は治安が悪い」

「えぇ。夕飯を食べていた店の女の子に嫌がらせしてるのを見て、ついね……でもいつもはあんな無茶はしないのよ」

「あぁ。説教したいわけじゃない。心配なだけだよ」

「もうしないわ……それに危ないのは貴方の方よ」

「あはは! 何か危ないことなんてあったか?」

 狼男に素手で向かった事も、瘴気のこともシィーンはすっかり忘れたように笑った。
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