亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 混乱したマキラの瞳に涙が滲んだのを見て、シィーンが立ち上がってマキラに近づく。

「マキラ……泣くほど、嫌だったのか?」

「え……?」

「今言ったように、俺は君を傷つけたかったわけじゃないんだ。でも傷つけたのなら謝るよ」

「……シィーン……」

「すまなかった」

 受け入れたのは、マキラの意思でもあった。
 無理矢理にされたわけじゃない。

 唇が重なるまでの、時間と合わさった時……確かに甘美な時間だった。

 雰囲気をぶち壊して、騒いだマキラの方を非難する男の方が多いだろう。

 それを立派な大の大人の男が、シィーン自身も傷ついた顔をしながら、真剣に謝罪してくれている。

 恥ずかしさからの興奮も、シィーンのその顔を見ていたら落ち着いてきた。
 そして、だんだんとマキラもしょんぼりしてくる。

 私の方が、シィーンを傷つけてしまったのかも……と。

「違うの……少しびっくりしただけなの。ごめんなさい、驚かせて……」

「マキラ……」

 少し安心したように、シィーンが微笑む。

「じゃあ、また楽しく飲み直さないか? せっかくだ。朝まで楽しく飲もうぜ! ……もうあんな事はしないよ」

 話を蒸し返すことはせず、シィーンは更に笑顔で言った。
 その笑顔を見て、マキラもホッとする。
 嫌われたくない――そう強く思った。
 
「いっぱい飲んで、酔っちゃったわね。酔いを冷ましたりしなくていいの?」

「あははは! せっかくの酔っぱらい同士なんだ。今更、冷ますものか! 戦いの後は酒を飲み明かすものだろ!」

「……ぷっ……うん、私もそう思うわ! じゃあまた飲みましょう!」

 男女の空気がなくなって、また笑う二人に戻る。
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