亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「失礼、占い師のマキラ殿はいらっしゃいますか?」

 野太い男の声だ。
 慌ててベールをかぶって、口元もフェイスベールをつける。
 逃亡生活をしてきたマキラは、机の裏に隠してある短剣を持ちドアを開けずに対応する。

「本日の鑑定はもう終わっています。申し訳ありませんが、お引き取りください」

 ただの押し売り?
 正体がわかるまでは緊張を解くことはできない。

「私の鑑定依頼ではありません。私は王家の使者です。貴女に特別な依頼があってお話に参りました」

「……王家……?」

 今、この首都で王家と名乗るのは覇王だけだろう。
 優しく話そうとしているが、厳格さを漂わせている声……。

「女性がお一人とのこと、警戒されるのは当然のことでしょう。ですが貴女にとって悪い話ではありません。王家の紋章をお見せ致します。どうか話だけでも……」

「……どういったご要件なんです……? まだ扉は開けられません」

「わかりました。貴女は文字をお読みになられますか」

「えぇ」

 世界統一前は、教育も行き届いていなかったので字が読めない者も多かった。
 王女として教育を受けてきたマキラには当然読める。

「それでは扉の前に、今回の依頼の件を書いた書面を置いておきます。明日にまた伺いますので、目を通して頂けますか」

「えっ……え、えぇ。それなら……あの貴方のお名前は……?」

「私は覇王の側近であります、ハルドゥーンと申します。しかし今は、エリザ姫の護衛をしております……」

「ハルドゥーン将軍……!?」

 覇王の側近であるハルドゥーンといえば、その名を世界に轟かせた勇猛果敢な将軍だ。
 虎将軍とも呼ばれ、子供の胴ほどもあるムキムキな腕で槍を操る。

 覇王物語に興味のないマキラでも知っている名だ。
 
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