亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 フラフラしているソファの二人。
 
 マキラは最後の一杯を飲む。
 
「たくさん……ごちろうさまれした」

 元王女も、年頃の若い女も関係ない。
 飲みたかったから、たくさん飲んだ。
 
 口づけのあとに、間違った選択をしてしまった……? と何故か迷いが心に残っていた。
 それでもどんなに酔っ払っても、ずっと笑ってすごく楽しい時間だった。
 
 腕と腕の間の30センチ。

 何故かこの距離が、もどかしい。
 でも拒んだのはマキラ自身だ。
 今更、マキラからシィーンに触れることなどできなかった。
 
「あはは、あ~~最高に楽しかったよ」

「うん私もよ」

「いい祝いになった」

「……? 祝い?」

「いや、なんでもないさ。あぁ……いい風だ」

「本当だ」

 良い風が吹いて、二人とも目を閉じた。
 マキラは、この首都を出る。
 この男には、もう二度と会うことはないだろう。

 シィーンが目を細めた。
 優しい、すごく優しい表情だった。
 見るとドキリとして、また口づける前触れなのかと思ってしまう。
 
 だけど彼が手を伸ばしたのは、ウッドデッキの脇に咲いた赤い綺麗な花だ。

「なぁマキラ……賭けをしないか?」

「……賭け……?」

 シィーンは、手の花をマキラに見せた。
 世界統一する前の、この国の国花『ルビーニヨン』だ。
 今はこの首都を象徴する花になっている。
 花言葉は『愛』
 5つの花びらが可憐に赤く、そして甘く香る。

「この赤い花を君に贈るよ。もしも俺にまた逢いたいと思ってくれたら、朝の窓辺に飾ってほしい」
 
「え?」

「そうしたら、俺は君に逢いに行く」

「逢いにって……私の家は教えられないわ」

「当然だよ。だから賭けなんだ」

「……そんなの、無理に決まってるじゃない……」

 この首都に、どれだけの住宅があると思っているのか。
 むちゃくちゃな事を言う。
 なんでもありの、男……。

「俺は賭けには負けないんだよ」

 シィーンは、自信満々に、でもあどけなく笑った。
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