亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 次の日、かなり高額の特級速達で侍女から返事がきた。
 結婚して子供が産まれたばかりだが、受け入れる用意をすると書いてあった。

「赤ちゃんが産まれてたのね! 報告が遅れたって……仕方ないわ。あぁ嬉しいわ!」

 結婚のお祝いはしたが、子供が産まれたのは初めて聞いた。

 逃亡生活のなかで、姉のようにいつも励ましてくれた侍女。
 王女だから、ではなく皆と生き残りの仲間として信頼しあって協力して、強く生きようと思えたのは彼女のおかげだ。

 大切な存在だからこそ……もう、彼女を解放したい。
 そう思い、自分の甘えに気付いたマキラは同じく特級速達で、自分の事は心配せず幸せになってほしいと伝えた。
 手紙と一緒に、祝い金も送った。

 ルビーニヨンは、まだ元気がある。

 マキラはそれから深く考え込んだ。
 侍女は七人ほどいたが、他の皆も別れた頃とは違う人生を歩んでいるだろう。
 
 自分一人でどこかへ逃げよう。

 ルビーニヨンは、少しくったりと首をかしげてきた。

「シィーン……」

 不安の波が心を押し寄せてくる時、何故かあの男を思い出してしまう。
 ただの一時、過ごしただけの男。
 素手であの狼男を、一瞬で退治した男。
 
 あの河川敷の事件はその後、少し噂になった。
 しかし噂のメインは誰かがイタズラに照明弾を撃ったというもので、狼男達のその後は不明だ。
 マキラも戦乱の世をくぐり抜けて生きてきたので、男に同情も一切ないし後悔もない。

 間違えた道を選べば、滅ぶだけ――。

 マキラの未来も、同じだ。
 一人で街を出て、一人でまた道を探して生きていく。
 自分に先読みの力は使えない。
 とてつもない不安があった。
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