亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 シィーンに頼りたいと思っているわけではない。
 だけど、彼が頭から離れない。

 あの腕に抱かれた……幸せな時間。
 シトラスムスクの香りが心地よい、温もり。
 微笑み合って、楽しい心が安らぐ時間。

 あれがまた……欲しい。
 
 そして二日後。
 お金を稼がなければいけないのに、彼が頭からチラついてしまい占い相談も少し中断してしまった。
 昨日は調子が良かったのに、どうして……?
 忘れるどころか、思い出す時間は何故か増えてきてしまう。

 恋愛相談は無数に聞いてきたのに、経験は何も無いマキラ。

「……シィーン……これが、恋なの……?」

 彼は自分を抱きたいと……俺のものにしたいと言っていた。
 それにマキラからも手を伸ばせば……どうなる?
 
 あの口づけを思い出すと、胸が熱くなって、ズキリと痛んだ。
 
「わからないわ……どうして……痛いの……」

 自分のこととなると、ポンコツだと思い知る。

「焚き火に照らされていたから、わからなかったかもしれないけど……褐色にしてる手足と胸元の肌の色を見られたら……どこの生まれか気になるに決まってる……それで身の上を聞かれたら……無理だわ……」

 嘘をつけばいいだけなのに、あの男には全てを見透かされてしまいそうだ。
 それに、元王族として自分の生まれを嘘で取り繕う事は、できないとマキラは思っていた。
 滅んでしまったが、それまでの国を自ら否定してしまう嘘は、母や歴代の女王達に顔向けできない行為だと……。

 そこは元王女としての面倒な、自分勝手なこだわりだとは思っている。
 名前も変えて、肌の色も変えているくせに……でも口から出た嘘をつくことはしたくない。
 
 あの男に、嘘は言いたくない……。

 だけど、最後に逢いたい。
 此処を離れる前に……一度でいい。
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