亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 この花は、彼の悪戯心だったに違いない。

 賭け……。
 負けたことがないと言った、あの男。

 じゃあ、また貴方は勝つの?

「……童話みたいな……お話よね……あは、馬鹿なマキラ」

 真面目に考えている自分が、なんだかおかしくなった。
 
 探せるわけもないとわかっているのに、朝、マキラは窓辺にルビーニヨンを飾った。

 マキラにとっても賭け……だった。

 そして夜。
 食欲もなくて、ビスケットだけを齧る。
 ここを出る準備も始めた。
 荷物をまとめ、売れるものは売って、できるだけ金にする。

「……シィーン……」

 そんな時にも、何も知らない男の顔がチラついた。
 あの理解を超える強さ……河辺の私有地は彼の物だと言っていたし、謎が多すぎる。
 ルビーニヨンがなかったら、あれは夢だったのでは? と思ってしまうくらい……謎の時間。

 それでも、ずっと考えてしまう。

 ……会いたい……。

 窓辺のルビーニヨンを、マキラは見つめた。
 明日にはもうしおれてしまうだろう。

「シィーンの事ばっかり考えちゃう。これが恋なの? ……来るわけないのに……来るのはどうせ、ハルドゥーン将軍がらみの……」

 その時、玄関をノックする音が響く。
 ベールをかぶって、口元を隠し、玄関に近づく。

 コンコンとまた、響く音。

「……どなた……?」

「マキラ、俺だよ。約束どおり、君に逢いに来た」

 あの情熱的な男の声だった。
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