亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 髭面の強面将軍として有名だった彼が、扉の外に!?
 焦りで心臓がバクバクした。

 そして、そんな彼が今はエリザという姫の護衛をしている……どういうことだろうか。
 
「貴女様にまで名前を知っていただけて光栄です」

 将軍の声はまだ優しい。
 マキラを捕らえるなど……そういうことではなさそうだ。

「わ、私はただの一般人のしがない占い師ですから!」

「とんでもない。貴女の占いの腕は城にまで知れ渡るほどでございます。それでは突然の申し出で失礼しますが、書面に目を通し御協力頂けきたい」

「は、はい……わかりました。読ませて頂きます」

 占いと聞いて、それ関係での訪問なのか……と思う。

「感謝いたします」

 扉の向こうの彼の、憂いが一瞬だけマキラに見えた。
 自分に対する殺意などは、ない。
 それでも彼が去っていくまでは、マキラの心臓は落ち着かなかった。

「はぁ……一体なんだって言うの?」

 少しだけ扉を開けると、確かに赤土の地面に手紙が置いてあった。
 首都のすみっこだが、少し行けば人通りのある道路が見える。
 わかってはいたがハルドゥーンの姿はどこにもない。

 マキラはすぐに書面を読む。

「……姫の住んでる宮殿へ来い……? 理由は、エリザ姫の……うんたらこんたら書いてるけど、つまり姫様の恋愛相談しろってこと?」

 恋愛相談……脱力してしまった。
 しかし、エリザという名前は……どこかで聞いたことがある。

「……覇王の婚約者なんだっけ……?」

 確か『エイード』と最後まで敵対していた悪名高き『ホマス帝国』の姫だ。
 ホマス帝国は軍事が盛んで、とんでもない兵力と魔力で次々に近隣諸国を滅ぼしていった。
 
「あぁ、じゃあつまり……私の国を滅ぼした帝国のお姫様ってことか……」

 一気に脳裏に浮かぶ、残酷で辛く、あまりに苦しい過去。
 封印して、封印して、思い出さないようにしている心の傷が、めくり上がって血が吹き出そうになる。
 
「はぁ~……、おことわり……おことわりよ。絶対に無理だわ」

 ビリビリとマキラは書面をやぶいて、ゴミ箱へ捨てた。
 心がグチャグチャに乱れる前に、深呼吸をする。

 思い出したくない、思い出したくないのだ。
 
 元王女という立場で、憎しみの炎に溺れて焼かれても、明日を生きる力にはならない。

 過去に惑わされるだけ無駄だと、マキラは知っている。

「さ! 買い物行こうっと! 今日は奮発してお魚のカレーにしようかな?」

 褐色肌の者が多いこの国。
 マキラは体質的に肌が白く、日焼けができない。
 最近では色んな肌の人々が首都に住んではいるが、マキラはこの地域の人間として混ざりたかった。

 褐色肌になれる日焼け止め入りのファンデーションとスプレーは、マキラのお気に入りだ。
 綺麗にお化粧をし直して、街に買い物へ行った。
 綺麗な薄紫色の髪も、実は銀髪を染めているのだ。
 褐色肌に、よく似合うことを考えて染めた。

 誰も知らない、彼女の秘密。

「落ち込む前に、パッと思考を変えるのが大事ね! 断って、それで終わりにしましょう!」

 占い師は、自分の運命を見ることはできない――。
 だからマキラは、前向きにポジティブである事をいつも心がけている。
 気を引き締めなけれ、いつでも後ろに亡国の人々が立っていると思っているからだ。
 それは応援というよりも……少し怨念に感じる時もある。
 
 しかし書面を破り捨てただけでは、元王女マキラを巻き込む運命の歯車を止めることはできなかった。

 何故なら、扉越しにお断りしたハルドゥーンが、毎日尋ねてくるようになってしまったのだ。

「一体、なんなの!?」

 このあと更に、マキラは追い詰められる事になってしまう――。

 
 

 
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