亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 シィーンは軽々とマキラを抱き上げた。
 何も言えずに、首元に抱きつく。
 今日もシトラスムスクの香り。
 それが、シィーンの匂いと混ざって……。
 これからもっと、シィーンと近くに混ざり合う……。

 顔が熱くて、ドキドキして、自分の息もいつもと違う。
 荒い息が、シィーンの首元にかかってしまうと、思ってしまう。
 
 いつも上っている階段も、自分の寝室ですら、違う場所に見えた。
 シィーンが、天井にぶら下がっているランタンの灯りを点けた。
 お気に入りの天蓋付きベッドに降ろされ、優しく頬を撫でられる。
  
「……あの、私……」

 初めてだ、なんて恥ずかしくて言えない。
 でもシィーンは何も言わなくても優しく頬に口づける。
 まるで宝物を扱うように……。

「わ……私、何もわからないの……」

「ん……そうか。怖くないように優しくするよ……」

 引くわけでもなく、シィーンは微笑む。

「あの……だから……何もできないわ……何をするかも……わからない……」

「あぁ、大丈夫……俺にまかせてくれればいいよ」

 こんな時に、また喋り始めて雰囲気を壊してしまう。
 何をやっているのかとマキラは心底恥ずかしくなる。

「何をしたらいいのか……あの」

「マキラ」

「は、はい」

「大丈夫だ。俺が、素敵な夜にするから……」

 優しく唇が触れるだけの口づけと、抱き締められて背中を撫でられる。
 
「シィーン……」

「愛してる……マキラ……」

「シィーン……んっ……」

 逞しい腕のなかで、優しさが段々と激しさに変わって、マキラはシィーンに溺れていく……。
 いや、もう溺れてる……この恋に……。

「お願い……あの……明るくしないで……恥ずかしい……あっ」

 生まれたままの姿にされていくなかで、唯一の不安をシィーンに伝えた。
 どうか、白い肌に気付かれませんように。

「わかったよ。月明かりの下で……愛し合おうマキラ」

 胸元に口づけされて、シィーンはすぐに部屋を暗くしてくれる。
 二人を照らすのは窓から差し込む月の光だけ。

「シィーン……愛してる……」

「俺もだよ……愛しているよ……」

 二度目の再会で、愛を囁くなんて……でも一番ふさわしい言葉としか思えなかった。

 シィーンの手で、奏でられる甘くとろける夜。

 王女としての純潔。
 そんなものは、もういらなかった。
 亡国の王女として、誰にも気付かれなくとも、いつも気高く生きてきたつもりだ。
 亡くなった女王や皆を思って生きてきたつもりだ。

 でも今だけは、忘れたい、
 散ってしまった王女の立場。
 一人の女として捧げる相手くらい、自分で選びたい……。

 生まれて初めて、男の人に惹かれて、初めての恋をした。
 一瞬に燃え上がって、終わる一夜限りの夢。

 それでもいい……シィーンが好き、彼に抱かれたい……。

 マキラはシィーンに抱かれる事を望み、彼は情熱的にマキラを優しく、そして激しく求めて抱いた――。
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