亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「覇王の事はどうでもいいさ。君は俺が……好きか?」

「え? もちろんよ」

 シィーンは、マキラの細い指を愛しそうに撫でた。
 大きな手は、古傷がある。
 何度も愛し合って、彼の身体には無数の古傷があることを知った。

 マキラも愛しい彼の手を撫でる。

「それならばいい。マキラ、ここでは指輪を愛する人に贈るんだ。俺も君に贈りたい」

「……えっ……」

「次に会う時は迎えに来る。君と最高の時間を過ごしたいな」

「私は貴方と一緒にいるだけで幸せよ。何も特別なことはいらないわ」

「ふふ、可愛いマキラ」

「……シィーン」
 
「まずは君の不安をどうにかしないとな」

「あの……お願いよ。無理はしないでね」

「君のためなら、どんな無理難題でも解決してみせる……大丈夫だ。心配するな」

 シィーンの瞳は、自信に満ちた瞳だった。
 その瞳を見ていると、本当にそうなるかのような気持ちになれる瞳。
 強い波動を、この男から感じる……そう思った。
 
「えぇ……わかったわ。今日はいつまでいられるの?」

「夕刻までだな。それまで甘い時間を過ごそう」
 
「うん!」
 
 愛する人へ贈る指輪……此処では結婚指輪を意味するのをマキラも知っている。
 
 シィーンは、未来のことを考えてくれている。

 マキラが純潔を捧げた意味を、彼は深く考えてくれている。

 きっと遊びではなく、マキラとの結婚を考えていると伝えたかったのだ。
 
 誰かと結婚する……そんな未来を、マキラは考えたこともなかった。

 だけど彼の腕の中にいると、彼との穏やかな暮らしをつい思い浮かべてしまった。
 愛し合っている時間は、ただただ幸せだ。
 それから口づけをしたり、抱き合い、また快楽に溺れたりして、すぐに夜になる。
 
「生誕祭の間は、占いはお休みなんだな。これを」

 シィーンの手には高額紙幣が何枚か握られていて、それをマキラに渡そうとする。

「え? お金なんかいらないわ」

 驚いてマキラは、それを押し返す。
 
「祭りをゆっくり過ごすために、だよ。可愛い君になんでもしたい」

「だめよ」

「じゃあ、俺のために受け取ってくれ。俺の財布から金を一度でも出すと二度と戻らないんだよな」

「なぁにそれ」

 シィーンは押しが強い。
 ニコニコと微笑んでいるが、絶対に財布へ戻すことはしないだろう。

「それじゃあ……ありがとう。美味しいご飯とお酒をいただくわ。あと覇王様へお祝いの花束を買うわ」

 覇王への祝いとして、花束やプレゼントを捧げる場所がこの時期になると用意される。
 そして何度も城へと運ばれるのだ。
 
「ふふ、それはいい。是非そうしてくれ。……そろそろ行くか。愛しているマキラ」

「えぇ」
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