亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 また抱き合う二人。
 寂しさが滲み出る。
 沢山の孤独を味わってきたマキラだったが、初めての切なさだった。

 あんなに愛し合ったのに、また何度も口づけた。
 舌を絡める口づけを最後に交わして、二人は熱っぽく見つけ合う。

「愛してるシィーン……また会いに来てね」

「当然だ。俺の可愛い君」

 シィーンは微笑むと、最後に名残惜しそうに頬に口づけた。
 絡んだ指が離れて、また触れて……そして離れた。

 彼はターバンで口元を隠し、大通へ去って行く。
 一度振り返って、手を振ってくれた。
 マキラも彼が見えなくなるまで見送る。

 心にぽっかり穴が開いたように、寂しい。

「……シィーン……」

 一人が当たり前だったのに、彼のいなくなった部屋はガランとして寂しく感じる。
 二つあったグラスを、片付けたくない気持ちになった。

 初めての切なさ。 
 シィーンがプレゼントしてくれた花束を、そっと撫でた。

 一夜限りの関係だったつもりだった。
 でも、離れられない……そう感じる。
 ……問題が解決すれば、この街で彼の恋人として生きていける……?

「……まさか、こんなことになるなんて……。こんなに好きになっちゃうだなんて……。あの件もシィーンがどうにかしてくれようとしてる……すごく頼りになる感じはするけど……解決するなんてできるの? ……もしも解決しなかったらどうしたらいいの……でもシィーンなら……もしかしたら……でも解決したら……その先は……どうしたらいいんだろう……」

 シィーンが好きで堪らなくて、離れたくない……。
 でも、この街を出て行かなければいけない……。
 でも、シィーンの言葉を信じたい……。
 もう会いたい。こんな気持ちは初めてで、きっと本物の愛だわ。

 でも、交際が続いたら? シィーンに私の事を知られたらどうなってしまう……?

 沢山の複雑な想いが重なっていく。
 マキラは一人、ベッドで眠りについた。
 混乱した時は、その時強く心に輝くものだけを考える……そうやってマキラは乗り越えてきた。

 今は……ただシィーンを愛している気持ちだけが、胸で輝いているのがわかる。
 
「シィーンの匂いがする……この香り……大好きよ……シィーン……」

 抱き締められて幸せな気持ちを思い出すと、マキラは眠ることができた。

 そして、驚くことに覇王生誕祭の前夜祭。
 多忙で抜け出ることなど無理であろうというような夕方に、ハルドゥーン将軍が現れたのだった。

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