亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 だが、首都を離れなくてもよくなったのだ。
 マキラはまた安堵の息を吐いて、まずは侍女に速達で報告の手紙を送った。

「シィーン……あなたは、賭けに勝ったのね……すごい……これでまた会えるんだわ」

 逃げる必要がなくなった。
 つまり、この街で占い師を続けて、シィーンの恋人でいられる。
 あの甘い時間を、二人でまた過ごすことができるのだ。

 今は開放感がいっぱいで、今後の不安よりもシィーンにまた会える喜びが、マキラの胸をいっぱいにする。
 すごく会いたい気持ちになった。
 でもそれは叶わない。
 約束の日は、まだ先だ。
 
 なのでシィーンから貰った金で、食べ物と酒を買うことにする。
 前夜祭の花火の音を聞きながら、部屋でゆっくり夜を過ごすことができた。
 
「……シィーンとだったら、一緒にお祭りをまわって、楽しかったかもしれないわね」

 買い物の最中も、恋人達が歩いているのをよく見かけた。
 この燃えるように暑い地域では、情熱的な恋人達が多い。
 手をつなぎ、素肌の腕を絡ませ、道端で口づけたり抱擁したりするのは普通のことだ。

 今までは何も感じなかったのに、シィーンの事を思い出してしまう。

 初めての恋人。
 謎の多い……謎ばかりの恋人。
 遊び人っぽいけど、それでもマキラへの愛は誠実だと思うし、信じている。

 早く彼に抱き締められたい。
 こんな気持ちは初めてで、どうやって紛らわしたらいいのかわからない。
 占い相談を受けていれば気は紛れるのだろうが、祭りの間は休みだ。

「会いたいわ……」

 一週間が長い。
 本を読んでも、掃除をしていても、シィーンの事を考えてしまう。
 なんだか人恋しくなってしまって、明日のパレードは行ってみようかなという気になった。

 そして次の日。
 夜のパレードまでに、次に会う時に着ようと素敵な金刺繍のワンピースを買った。
 胸元もしっかり隠して肌の露出は少ないが、清楚な青色は気品がある。
 口紅も買って、熱っぽい口づけを思い出す。
 
「……私、いつもシィーンの事考えているわね……」

 城へと続く一番の大きな道は、沢山の人で埋め尽くされていた。
 今まで、準備期間と祭りの後しか見たことがなかったので、熱狂さに圧倒されてしまう。

 覇王のファンだと一目でわかる、旗を持った女性達の会話が聞こえてきた。
 
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