亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「私は近くで見たことがあるのよー! めちゃくちゃかっこいいんだから!」
「いいなぁ~覇王様のお顔って、絵にもなっていないもんね」
「覇王様が自身のかっこよさを、絵で表現などできないって拒否してるらしいって噂よ」
「そのものすごい自信が、さすが覇王さま~~!! 絵があったら祭壇作るのになぁ」
「だって神だもんね!」

 キャーッと最後は黄色い悲鳴になった。
 
「すごいわね……そんなにかっこいいんだ……でもシィーンの方がかっこいいと思うわ」

 そう言って、謎の多すぎる恋人にも沢山の女性ファンがいるのではないかと思う。
 彼が過去に遊んでいた、と言ってついプンプンしてしまったのも、それができる顔と肉体と魅力あふれる人格がマキラにも理解できたからだ。

「……シィーン……貴方の沢山の謎を知りたくなってきた……なんてね」

 彼は一体どんな生まれで、どんな仕事をして、どんな生活をしているんだろうか。
 自分の話はできないし、貴方の事も結局は聞かない。
 でもいつも、貴方のことを考えてしまう……。
 貴方はどうかしら? 今、私のことを考えてくれている? 忘れてる?
 
 まるで恋を歌う吟遊詩人だわ、と自分に呆れながら歩いていると、覇王物語を歌う吟遊詩人がいた。

「神に愛されし覇王様~♪ しかし彼は~最初から王子として生まれたわけではない! 彼の生まれは河っぺり~♪ 捨て子の孤児こそ運命の子~♪ 如何にして彼は覇王へと上り詰めたのか~♪ 壮大な物語が始まった♫」

 覇王物語に、初めて耳を傾けた。

「え……覇王って、王子じゃなかったの!? ……どうやって覇王になったのかしら?」

 今まで興味もなかったのだが、つい気になって聞いてしまった。
 覇王は河辺に捨てられていた、どこの生まれかわからない孤児だった。
 そして孤児院で育てられ、仲間たちと出逢う。
 そして抜群の頭脳と才能で、なんと七歳の時にライオン狩りをしていたエイード国王の命を助け、その後に継承権のない養子となった。
 覇王は、ハルドゥーン達を率いて、国々を旅し神に等しい力を蓄えていったという。
 そして新国を立ち上げ世界統一をしたいという野望を持った。
 激化する魔術戦争で、全ての継承者を失ったエイード国王が彼にこの国を基盤にするがよい……と伝えた。
 そして覇王の夢、世界統一は成された。

「捨て子から……? 本当に神の子なのかもね……」

 さすがに脚色はしているだろうが、孤児で平民生まれから成り上がった覇王の人気が絶大なのは理解できた。

「ありがとう、面白かったわ」

 吟遊詩人の楽器ケースに金を投げ入れ、マキラは立ち飲み屋で一杯ハーブ酒を飲む。
 すごい人混みだった。
 花火の火薬の香りに、花の香り、スパイスの香りに、女たちの香水、男達の煙草の匂い。
 皆が大いに盛り上がり、首都は熱気と興奮の夜に包まれる。
 
 そしてパレードが始まった。
 マキラは人混みで一番の遠目から眺めているが、音楽隊に踊り子、花を撒く人、紙の像で覇王の歴史が語られる。
 
 全てが壮大だ。

 マキラが王女だった時も、ここまで盛大ではなかったが、祭りやパレードがあった。
 だから見るのを拒んでいたのもある。
 一生消えない心の傷だ。
 癒そうとも、癒えるとも思えない。
 亡国の皆の笑顔がチラつく……。

「……余計に寂しくなっちゃうかな……やっぱり帰ろう」

 そう思って去ろうとしたが『覇王様ーー!』と声が一層大きくなった。
 いよいよ覇王が現れるようだ。

 かなり遠い距離だが、巨大に作られた祭壇のような神輿のようなものに覇王が座っているらしい。
 皆が手を振り、花びらが舞う。
 国民達の熱狂的な声が響く。

 これが覇王の人気だ。みんなが彼の誕生を祝っている。

 覇王の横にはハルドゥーン将軍らしき男と、もう一人知将と呼ばれる男が立っている。
 覇王が皆に答えるように、手を振っていた。


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