亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「え……虎の子供……?」

 庭を歩いていくと、真っ白でふわふわな虎の子が二匹。
 シィーンに飛びつくように走ってやってきた。

「あぁ。仔虎だ。おい、俺の恋人のマキラだよ。ティンシャーとバグガルだ。この時間は好きにさせているんだ。君にも紹介したくって」

「なんて可愛らしいの。虎を飼うなんて、すごいわ」

 ぴょんぴょんと二匹は、シィーンの周りを飛び跳ねる。

「親虎が亡くなって孤児だったのを拾ったんだ。飼うというか、俺がいつも遊ばれているんだよ」

「ふふ、可愛い。私も遊びたいわ」

「二匹に嫉妬するのはごめんだよ。まずは俺と愛し合うんだ」

「もう、仔虎に嫉妬しちゃうの?」

「するさ」

「ふふ」
 
 二匹を連れながら、シィーンはマキラを抱いたまま屋敷へ入る。
 煌めくシャンデリア。
 壁には複雑な模様が美しく描かれている。
 
 海外の物と思われる絵画に、壺や、宝石があしらわれた像。
 そのまま豪華な芸術品が飾られた大理石の廊下を、歩いていく。

「素敵……!」

 輝く豪華絢爛な屋敷に、マキラは感嘆の声を挙げた。 

 庭が綺麗に見渡せる大広間には、伝統的な絨毯が敷かれ、長いローテーブルには沢山の食事と酒が用意されていた。
 ふかふかのクッションに優しく降ろされる。
 降ろされたマキラに仔虎が二匹とも飛びかかって、しばらく二人と二匹でじゃれ合い、遊んだ。

「お前たち、餌の時間だよ」

 どこかでチリンと鈴の音が鳴ると、二匹は遊びながら去って行く。
 お世話係がどこかにいるらしい。

「あぁ楽しかった! とっても可愛い子たち。それに素敵な絨毯に、贅沢な家具……美味しそうな料理に……此処は魔法か、夢の世界?」 
 
「気に入った?」

「なんだかびっくりしちゃって……豪華絢爛とはまさにこの事だわ……」

 圧倒してしまってマキラは、はぁ……と息を吐く。
 王女だった頃も、こんな豪華絢爛な宮殿には住んでいなかった。

「君を喜ばせたくて、つい張り切ってしまった。こういうのは苦手じゃないかい?」

「慣れていないだけよ。シィーンの気持ち、とても嬉しい。私のためにありがとう」

「君が喜ぶことを、なんでもしたい」

 シィーンが微笑んで、二人はまた熱い口づけをかわした。

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