亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 命からがら祖国を離れた時は、その後も帝国から命を狙われていた。
 先読みの力を持つ王族は、危険だと判断したのだろう。
 元々、支配した国の王族は根絶やしにしてきた国だ。
 
 必死で逃げた日々が、どれだけ辛かったことか……。 
 未婚の侍女達も家族を失い、それでも皆で希望を捨てずに、身分を隠し小金を稼ぎ、生き延びた。

 木を隠すには森の中。
 そう思い、帝国の敵対国で、人が大勢いるこの首都で暮らす事に決めたのだ。
 一年後に世界統一がされてからも、ずっと此処に住んでいる。
 
 独り立ちできるようになって、マキラは侍女達に自由を与えた。
 彼女達は渋ったが、何かあった時に連絡をとってそれぞれの土地に逃げられる――そう思ったからだ。
 
 今は隣の領地という言い方だが、過去には隣国だった草原の国に、一番気の合う侍女が住んでいる。
 
 そこへ行こうか……?
 離れてからは会ってはいないが、手紙のやり取りはしている。
 いつでもどんな時も頼ってほしいと言われた。

 マキラは自分の部屋の占い部屋を見た。
 ここ数年で、少しずつ小物を揃えて占いの雰囲気を出したお気入りの占い部屋。

 この土地で努力して手に入れた地位だが、いつでも手放せるようにはしている。
 やはり、元王女としていつ何があるかはわからないからだ。

 それでも……全部手放すのは……。
 ズキリ痛む心。

「覚悟はできてるけど……ね。あぁ~またイチからかぁ」

 覇王生誕祭で街が活気づくなか、マキラは溜息をつく。

 今日もマキラの悩みなど知らない女性達の話を聞いて、それでも真剣に相談に乗ったマキラ。
 人の人生に関わることだ。
 一切、気は抜けない。

 疲れに疲れて、夕飯を支度する気にもなれない。

「はぁ~あ……飲みに行こうかな」
 
 マキラは、女一人でも飲みに行く。
 小さな頃からお転婆で、物怖じしない。
 だからこそ母、もマキラが生き残れると信じて逃がしたのだろう。
 
 マキラは質素で身体を全て隠す落ち着いた茶色のロングワンピースに、紅色のベルトを締める。
 そしてベールとフェイスベールは必須だ。
 
 この暑い暑い街では、若い女は色とりどりのパレオなどの露出の高い服を着るのが普通だ。
 ビキニのようなトップスにスリットが大胆に入ったスカートも、皆が着ている。
 
 しかしマキラのような美貌で、そんな派手な服を着ていればすぐに男たちが群がってきてしまう。
 女一人で夕食時に出かける時は、マキラは厳しい国の出身のような出で立ちをして出かけるのだ。

「これで食べ収め、飲み収めなら我慢してた分、いっぱい食べて飲んじゃいましょ!」
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