亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 このプロポーズを断れば、恋人関係も解消されてしまうのだろうか。
 幸せの絶頂になるはずのプロポーズ。
 嬉しいのに、『はい』とも言えず素直に喜べない自分に、心底泣きたくなってしまう。
 会いたくて、会いたくて、とても幸せだったのに……。
 
 もしかして、これでお別れになってしまう……?

「私……」

 マキラは答えられず、沈黙が続く。
 泣きそうになってしまうのを悟られたくなかった。
 いや、もう本当はマキラの頬に涙は伝っていたのだ。

 シィーンは、黙ったままリングケースを閉じた。

「シ……シィーン……」

 呆れられたのかと、マキラは血の気が引く思いだった。
 でも、シィーンはすぐにマキラを胸に抱いた。
 
「すまないマキラ、俺は君を苦しめたいわけじゃないんだ」

「シィーン……私」

「俺の真剣な気持ちを、君を愛している気持ちを伝えたかっただけなんだ」

「わ、わかっているわ。私が口づけした時に……あんな事を言ったから……」

 初めての口づけで、『尻軽じゃない』だの『遊び』の話をして泣いたりしたから。
 でも再会して抱かれた時から、彼の真剣さはわかっていた。
 
「シィーン、愛しているの……でも」

 不安で冷たくなっていく手。
 そんなマキラの手を、シィーンは優しく握った。

「とりあえず、少しの間一緒に暮らしてみないか? 馬車は好きに使って出かけていいし、何も心配はいらないよ」

「でもプロポーズの答えを先延ばしするなんて……いいの?」

 彼の誠実さに比べて、自分はなんて不誠実なんだろうと心が痛む。

「前に話した昔話を覚えていないか? 美しい女性は男達が求婚しまくって、それでもワガママを言って振り回す。あれも欲しいこれも欲しいと条件を出す。男は必死で右往左往し彼女の願いを叶えようとする……それでいいのさ。美しい女性はいくらだって男を振り回していいものだ」

「わ、私そんなワガママが言いたいわけじゃ……」

 シィーンが、この場を笑顔にしたくて冗談を言ってくれてるのだとわかる。
 マキラだって、話術は得意な方なのに彼が相手だと、何も言葉にできなくなってしまう。

 愛がもどかしい……。
 愛しているから……何も言えない……。

「ワガママになっていいんだよ……俺は君に世界一優しく、甘くするさ……」

「シィーン」

 泣きそうなマキラの髪を撫でるシィーン。
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