亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 でも大商人かもしれないし……やはり彼の素性は想像もつかない。

 そんなシィーンからのプロポーズ。

 気楽に、いつか別れる恋人気分を味わっていたかったわけではない。
 でもマキラは、一日一日を生き延びる生活をしていた。
 いつ死ぬかもしれない自分。
 今日の一日に感謝して、明日生き延びる生活を心がけて生きてきた。
 果てしない未来を思うのは、心が疲弊する。
 だから故郷が奪われてから、遠い未来を考えたのは今が初めてかもしれない。

 初めての恋に浮かれて、彼との長い人生の先まで考えられなかった……。

 でも今、10年……20年……未来の重みが……元王女に伸し掛かる。

 シィーンの深い愛情はとても嬉しいのに、マキラの心に暗い影が落ちたのも確かだった。

「マキラ……どうした? 気分が沈むのか」

「いえ……なんでもないの。シィーンのせいじゃないわ。私のせいよ」
 
「君のせいである事など何もないよ。愛しい君にはいつも笑顔でいてほしい」
 
 シィーンにこれ以上、気を遣わせたくない。
 マキラは今だけは、深く考えるのを一度やめようと笑顔になった。
 そして、風呂に浸かっていたシィーンに寄り添う。

 シィーンの身体にはいくつもの、古傷があった。
 彼にも過去がある……。
 マキラが古傷に口づけると、シィーンは熱っぽくマキラを抱き締める。
 
「君の美しい肌を見ていたら、また愛し合いたくなってきた。魅力的すぎて困るな」

「えっ……また……あっ」

「俺達は全ての相性が最高だ。どうして今まで離れていたのか、わからないくらい……」

「シィーン……私も貴方が好き……離れたくない……」

 こんなに近くにいても……未来が読めない男。
 とても強くて、とてもお金持ちで、権力もあるに違いない。
 彼の腕に抱かれて、何不自由なく甘やかされて生きることを、何故素直に受け入れられないのか……。

 亡国の王女は、どうしたらいい……?

 それでも彼から愛されると、マキラの心も身体も、喜んでいるのが自分でもわかる。

「マキラ、俺は君の全てを受け入れる……大丈夫だ……何も心配しなくていい」

「シィーン……そんな……」

 愛撫の途中で、シィーンはそんな事を耳元で囁いた。

「でもまだ信用はできないよな。出逢ったばかりで……俺も君にとって謎の男だ。これからゆっくり……お互いを知っていこう……俺がマキラのよいところを……知っていくようにな」

「や……やんっ」

「ふふ、マキラのよいところはもう全部わかっているか……さぁ俺のことも受け入れて愛してくれ……!」

「シィー……ン……!」

 これからゆっくり……その言葉に安心しながら、激しくなる愛にマキラはまた乱れ二人は愛し合う。

 今日も真夜中まで愛され続け、豪華な寝台で眠るマキラ。
 寝息を立てる彼女の髪を、優しく撫でるシィーン。

「この俺でも……惚れた女性が相手で、少し焦りすぎたかな……。マキラ……君は俺から逃げようとしている……? ゆっくりと俺の話をして、わかってほしい……。俺は絶対に君を離さないし、今回の賭けも必ず俺は勝つよ……」

  シィーンの囁きが、夜に溶けていった。

 
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