亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 屋敷の大広間に、今日も眩く熱い情熱の太陽の光が降り注ぐ。

 求婚の指輪は、寝台にある棚にシィーンが仕舞って、それから結婚についての話は一切なかった。
 それを不安に思うような態度はシィーンはせずに、マキラを楽しく笑わせてくれる。

 食後も仔虎達と遊びながら、またシィーンに抱き締められ、マキラも愛しくて抱き締めた。

 口づけたり、撫であったり、愛し合うのに忙しい。

 誰もいないので、二人ともまだ寝間着姿だ。
 そろそろ着替えて……とマキラが思った時。

「君にプレゼントがしたいんだ。昨日の服も、今の寝間着もとても素敵なんだが……この家にいる時の服は、俺に用意させてくれないかな?」

「あぁ……私が着る服は地味な服ばかりだものね。年配に間違えられてしまうような」

 今着ている寝間着も、薄手ではあるが手首足首までしっかりと包むものだ。
 シィーンは寝間着も着ずに裸で寝て、部屋ではガウンを羽織っているだけ。
 そんな姿がセクシーで、自然に思えるのがすごいとマキラは思う。

「絶対に秘密を守る一流の仕立て屋を呼んで、素敵な服を作ってもらおう」

「そんな事言って、セクシーな服を作って私に着せるつもりね?」

「あぁそうだ!」

 シィーンが盛大に笑いながら言う。

「もう、えっちね! でも……そうね……貴方のために、此処で着るだけなら、いいわ」

「やった! 嬉しいな……マキラといるとまるで俺は、恋を覚えたばかりの少年のようだよ」

 大喜びするシィーンに指先へ口づけされる。
 どんな服を着ることになるのか……恥ずかしいけれど、こんなにも贅沢な事をさせてもらって、できることなら何でもしたいと思う。
  
「私なんて、貴方が初恋で初めての恋人なのよ……子供よね」

「全部、俺が初めてかい?」

「そうよ! 貴女は違うわね?」

「俺は世界一幸せな男だよ。更に君に嫉妬までされて」

「し、嫉妬なんかしてないんだから!」

 そうは言っても、本当は少し嫉妬している。
 こんなにも完璧な男は、きっと沢山の女性と付き合ってきたからだとわかるから……。

「ははは! マキラ、愛してる」

「ん……うん、愛してる……」

 口づけされたら、嫉妬なんか流れてしまう。
 ずるいくらい愛しい人……。

「ごめん、じゃあ昼間に数時間だけ仕事をしに行くよ。だから君は仕立て屋に、うんとワガママを言って好きなものを用意してもらえよ」

「えっちで、意地悪な貴方を散財させてやる! って?」

「あぁそうだ。えっちな服を沢山買って、俺を破産させてくれ! あはは」

「ふふ、もう! そんな事しないったら!」

 マキラの優しいポカポカを、シィーンは笑って抱き締める。
 いつだって二人でのやり取りや、じゃれ合いが、楽しくて嬉しい。

「でもマキラ……俺は贅沢が好きな男かと言われると、そうでもないんだ。野宿してトカゲを喰らってボロ布を纏い、木の棒で戦った事もある。だから卵一個食べられて、屋根のある部屋で、シーツにくるまって眠れる幸せだけで十分だと思うんだよ。それだけでも、明日への夢は大いに見られるからな」

 シィーンはどこか遠くを見つめた。
 その横顔は、何か思い出すような……沢山の旅をした旅人のようだった。

「……シィーン……」

 力強い目をした旅人を、マキラも護衛を付けた散策中に助けたことがあった。

 その野原には体力を奪う魔草が生えていて、国外の人間は知らずに迷い込んで、よく遭難をする。
 慌てて助けた彼らにマキラの水とランチを渡すと、旅人達はすぐに元気になった。 
 そして輝く瞳で、夢を語って礼を言い、去っていった。
 幼い頃の思い出だ。
 
「でも俺が慎ましくしている事がよくない場合もあるからな! だから周りに従って、わざとに私財を使って豪華絢爛に飾ったりもするが……君には、それ以上になんでもしてあげたいんだ」

 優しく強い男の瞳。
 謎の恋人の謎は深まるばかりだが、深く愛されている……それはすごく伝わってくる。
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