亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「……私にそんな価値があるのかしら」

「当然だよ。君は俺をこれほどまでに魅了する。愛しているマキラ姫」

「も、もう!」

 時に、自分の正体を知っているのでは? と思うようなドキリとする事を言う。

 シィーンに『いってらっしゃい』の口づけをすると、彼は嬉しそうに微笑んで、仕事へ行くと出て行った。
  
 綺麗な庭と屋敷、いつのまにか中庭に用意されていたティーセット。
 美しく飾られたデザートと、紅茶のセットだ。
 
 一人になったマキラを慰めるように、仔虎のティンシャーとバグガルもやってきた。
 本来は猛獣であるはずの二匹なのに、マキラには子猫のようにじゃれてくる。

「うふふ。本当に可愛い」

 その後は、シィーンの言ったように超一流の仕立て屋が来て、マキラに似合う服を見立ててくれた。
 仕立て屋はマキラを見て、彼女の美しさに大興奮したようだった。
 何度も何度も褒められながら、素直に採寸や試着に応じた。
 
 化粧品や、クリーム、香水。
 下着や宝石まで、色々なアドバイスを受けたが、マキラはシィーンが喜びそうなものを最小限選んだ。
 
 熱い国での若い女性が着るような一般的な服だが、お腹が出て胸元も強調されるような服は初めてだ。
 白い肌も褒められて、露出が多いため似合うアクセサリーも合わせてもらった。

 仕立て屋には、採寸もされて次はマキラのためだけの服を作ってくると言って去って行った。
 
 そして気づけば、昼食も用意されている。
 仔虎達と遊びながらなので、寂しくはない。
 
 何もかもが夢のような、贅沢な暮らし。

「こんなに豪華じゃなかったけど……至れり尽くせりで、王女の頃に戻ったみたいね……」 

 ……もしも、祖国がまだあって、自分が王女だったら……。
 この情熱的な覇王の国で、シィーンとの恋に落ちることなど……。

 「王女のままだったら……シィーンに出逢う事もなかったのか……」

 マキラの周りは侍女や女教師達に囲まれて、同年代の異性と触れ合う機会など一切なかったと思う。
 彼女にも、婚約者がいたのだが数回会ったことがあるだけの、年上の従兄弟だった。
 
 いやらしい目で見てくる従兄弟は苦手で、母にも何度か婚約破棄の申し出をしたのだが、戦争の混乱で有耶無耶になってしまった。
 
「私が誰かに愛される……こんな運命が訪れるなんて……あ! シィーンかしら?」
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