亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

幸福に満ちた日々


 また仕事へ行くシィーンを見送ってから、マキラは露出の高い服を脱いで、自分の服に着替えた。
 
 馬車の御者は何も言わず、静かにマキラを家まで送ってくれた。
 それから、いつもと同じ褐色のメイクをして、依頼者を出迎えた。
 そしてマキラの最後の占いが終わる頃に家の前に来て、またシィーンの宮殿まで送り届けてくれる。

 奇妙な送迎時間。
 馬車はカーテンが引かれていたので、マキラは外を眺める事はしなかった。

 これからゆっくり……とシィーンも言っていたし、自分から暴くことはしたくない。

「ありがとうございました……!」

 すぐに姿を隠した御者だったが、礼を伝えて屋敷に入れば、お茶が用意されている。

「ティンシャー、バグガルまだ起きてたのね?」

 マキラに飛びつく二匹の仔虎を、抱き締めた。
 仔虎達と遊びながら、ウトウトと大広間のローソファで眠ってしまっていたマキラ。
 今度は仕事を終えたシィーンが、彼女を優しく抱き締めた。

「シィーン……おかえりなさい……」

「ただいま、マキラ」

 誰かを待つ喜び、二人で眠る喜び。
 全てが、幸せに満ちた時間だった。

 シィーンは、あれから結婚の話はしない。
 マキラも自分からは話には出せなかった。

 でも、この生活がとても愛しく思えた。

 王女として血族同士の繋がりのためだとか、財力だとか、権力だとか、血筋のために子を成すだとか……そういうもののための結婚ではなく……。

 愛する人と一緒に幸せな時間を過ごす。
 これが結婚……?
 なんて素敵なことなんだろう……。 

 でも、まだ答えは出せずにいる。
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