亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 夜でもまだ暑い、赤土の道を歩いて行く。
 ファンデーションが落ちないように、ハンカチで上手に汗を拭った。

 人通りが多いが、少し民家の間を抜けた場所に、お気に入りの飲み屋がある。
 気の良い女将さんで、ご飯が美味しい。
 働く店員さんも、みんな元気でいつも笑顔だ。
 女一人でも安全に、楽しくご飯が食べられる。

 隠れた名店からは、今日もスパイスの良い香りが漂ってきた。
 この香りを嗅ぐと一気にお腹が空いてくる。

「マキラちゃん、久しぶりだねー!」

「最近忙しくって~女将さん、今日のスペシャルメニューちょうだい! ハーブ酒のソーダ割りもお願いします!」

「あいよー!」

 暑い国なので、やはりスパイスの効いた料理が人気だ。
 最初は慣れなかったが、今ではスパイスが効いていないと物足りない! とマキラも思うようになった。
 
 十八歳で成人し、飲んだ酒もハーブがたっぷり入っていて大好きになった。

「はぁー美味しい~!!」

 占い鑑定で喋りすぎた喉に、冷たいソーダ割りが染み渡る。

 窯でじっくり焼いたラム肉に、薄く焼いたパン。
 冷たいハーブ酒のソーダ割りには細かく切った果実も入っている。
 ここ数年で魔術による冷凍冷蔵技術が急速に発達し、氷も庶民が気軽に扱えるようになった。

 これも世界統一して技術を融合されたからだとか……しかし今考えることではない。
 
 好きな料理を食べて、好きなだけ飲む時間。
 これがマキラの贅沢で最高の癒やし時間だった。

 マキラを慕ってくれる人は、この土地に沢山いるが、やはり自分の身の上話をするわけにもいかないので人の話を聞くことになる。
 となると、また人生相談が始まってしまうので一人で過ごす方が気楽だ。
 気兼ねなく、食事を楽しんだ。

 ある程度お腹が満足すると、やはり心の中は今後の問題について考えてしまう。
 
 新天地でも上手くやれる自信はあるが、当然に不安や慣れた土地を離れる寂しさもある。

「まったく……覇王のせいで……ワガママ姫の手綱くらいちゃんと持ってよ。とばっちりだわよ。やっぱり苦手だわ覇王……」
 
 事情は全く知らないが、愚痴は覇王にも向けて出てしまう。
 恋愛問題は双方に責任があるとは思うのだが、とばっちりは御免だ。

 もう一杯、酒を頼んで飲んでしまった。
 周りはこれから行われる覇王の生誕祭の話で盛り上がっている。
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