亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 それからほんの数日経ったある日。
 今日はシィーンも早めに帰宅ができて、夕飯も一緒に食べることができた。
 シィーンの腕にもたれながら本を朗読するマキラを、彼は優しく見つめる。

「マキラ、その栞は?」

「うふふ、これは貴方から貰ったルビーニヨンよ。萎《しお》れる前に、辞書に挟んで押し花にしたの」

「わざわざ萎れかけた花を?」

 確かにルビーニヨンは、少し色の悪い押し花になっている。
 栞に結んだ可愛いリボンは、シィーンから貰った花束のリボンだった。
 花束もドライフラワーにして、部屋に飾っている。

「だって、二人の大切な思い出じゃない」

 マキラが少し頬を染めて微笑んだ。

「なんて可愛いんだ! 愛しいマキラ。君の存在全てが俺を最高に幸せにする……!!」

「もう! 大げさね」

 クスクス笑うマキラを、感激して抱き締めるシィーン。
 あの日、心のままにルビーニヨンを窓辺に置かなかったら、どうなっていたんだろう?
 飾ってよかった……今はそうとしか思えない。

 シィーンの温かく大きく、逞しい胸。
 そして沢山の愛情。

 マキラは彼の胸に抱かれていると、心からの幸せを感じる。
 母は厳格で、こんな風に抱き締めてくれたりはしなかった。

 肩や背中を撫でられると、心の中からジワジワと温かいものが溢れ出るような……。
 こんな満ち足りた気持ちは……初めてかもしれない。
  
 でも、このまま真実を隠し続けていいものか?
 でも……話してしまえば、この甘い幸せは終わってしまう……?

 マキラは幸せに溺れながらも、亡国王女としての自分を忘れるとはできなかった。

 そんな忙しくも穏やかな日々が、また二日続いた日。

「仕事で数日、留守にするよ」

「まぁ、そうなのね。ティンシャーとバグガルが寂しがるわ」

「君は寂しがってくれないのか?」

「ふふ、寂しいに決まってる。でもお仕事頑張ってね」

「もちろんだ。本当は君も連れて行きたいくらいさ。でも占いが入ってるね」

「そうなのよ」

 最近になって、ますます占いの予約が増えてきてしまった。
 
「俺の留守中は、自分の家で過ごしてもいいし、また馬車で通って此処で過ごしてくれて構わないよ。ティンシャーとバグガルと遊んでくれたら俺は嬉しいし、安心なんだが」

「じゃあご飯は家で食べるけど、夜は此処で過ごそうかしら」

「飯も此処で食べればいいじゃないか。伝えておくよ?」

「貴方がいないのに、そんなの申し訳ないわ。帰ってくるのはいつ? 私、家でココナッツケーキを焼いてくるわ」

 ココナッツは故郷でも手に入り、マキラは大好きでよく食べていた。
 今は侍女に教えてもらった同じレシピで、自分で焼く。

「五日後だ。それは楽しみだな! ココナッツケーキは大好物だ」

「本当?」

「あぁ。昔、食べさせてもらってから大好きになった」

「そうなのね! 沢山焼かなきゃ」

「嬉しいよ。俺も土産を沢山買って帰るよ。何がいい?」

「貴方の選んでくれたものなら、なんだって嬉しいわ」

「君のいじらしさは本当に可愛い」

「シィーンったら……でも五日も離れるなんて、寂しいわ」

「俺もだよ。たっぷり俺の証を残していかないと……」

 別れを惜しむように、二人は情熱的な夜を過ごした。
 
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