亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 そしてマキラは自分の家へと戻る。
 今まで当然だった一人の時間が、自分の家が、がらんどうのようにも感じてしまう。
 
 マキラの占いの時間だ。

「マキラ先生、私すっかり元気になりましたよー! あんなクズのことなんかすっかり忘れて、織物と覇王様に夢中になってま~す!」

 暴力男との復縁を望み、マキラが織物コンクールに出品する事を勧めた女性が、元気いっぱいの笑顔でマキラに話をする。

「それはよかったわ!」

 助言が役に立ったと、マキラも微笑む。

「先生は覇王様のパレードは、行かれました!?」

「行ったんだけどね~米粒にしか見えなかったわ」

 あははと苦笑いするマキラ。

「なんと私! 二日前から席取りをして最前席で見れたんですよぉ!」

「え……すっごい! 覇王様はかっこよかった?」

「もうめちゃくちゃかっこいいですよ! 赤い髪が炎みたいで……瞳は金と紅色が燃え上がる太陽みたいで、オーラがすごいんですよ! 逞しい身体が豪華な衣装に負けてなくて……まさに覇王です! その時、私は自分も覇王様みたいに輝いて生きるんだ! 大好きな覇王を応援するためにも自分を大事にするんだ! って強く思ったんですよ!! まさに神!! 最高!!」

「へぇ~覇王様って赤い髪と瞳なの……覇王様の効果は絶大ね。自分を大事にするってとても大事だもの!」

 シィーンと同じね。と思う。
 彼女がクズ男の依存から逃れられたのは、輝く覇王の存在だった。
 彼女も照れたように笑う。

「実は、覇王様の絵を描いちゃったんですよぉ~!!」

「え、禁止されてるんじゃないの?」

「売ったりしなければ、別にいいじゃないですか~見ます?」

「見たいわ」

「うふふ、私の覇王様ですよ~」

 彼女は絵も上手で、マキラも似顔絵を描いてもらった事もあった。
 にこにことカバンから巻物のように丸めた絵を取り出して、マキラに渡す。
 
 覇王を描くために奮発したであろう、白い革。
 そこに油絵の具で描かれていた。
 豪華な衣装に包まれ、民衆に手を振る男の絵。
 凛々しく微笑んでいる顔は……シィーンによく似ているように見える。
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