亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「へぇ……確かに……かっこいいわね……」

 つい、見入ってしまった。

「マキラ先生?」

「あ、いえ! よく描けているわね!」

「ですよね~覇王様は~今日は~統一国家会議でパルメガ地域へ行くそうですよ」

「すごい情報収集ねぇ」

 覇王様も出張か……とマキラは思う。
 パルメガは確か、肌寒い地域だ。
 シィーンも過ごしやすいところへ行くと言ってたな……と思い出してハッとする。
 セッション中に恋人のことばかり思い出して、何をやっているのか!
 でも彼女も悩み相談というよりは、覇王の話を聞かせることを楽しんでいるようだ。

「覇王様、色気が更に増して……恋人がいるんじゃないかって噂なんですよねぇ。あ~羨ましい!」

「恋人って……覇王様には婚約者がいるでしょう」

「あぁエリザ姫ですか? あれは元敵国の皇帝が無理強いしてるだけで、覇王様にその気はないってのが覇王マニア達の見解です!! だってもしも婚約者ならパレードの時に隣にいたっていいでしょう?」

「まぁ……そうねぇ」

 それから彼女は楽しそうに覇王の話をして、コンクールも頑張ると笑顔で帰っていった。
 占いも殆どしなかったので、マキラは料金の半分だけ頂いた。

「覇王様かぁ……シィーン……まさか……? なんて! そんな事あるわけがないわ! でもそのくらいかっこいいわよね。オーラがすごいもの……もしかしたらシィーンも覇王の将軍の一人なのかも! ……なんてね」
 
 そしてシィーンが留守にして、四日後。
 さすがにマキラも寂しさが募ってきた。

 胸元や、太ももに付けられた口づけの証も消えかかっている。
 シィーンのガウンを抱き締めたり、彼の香水を嗅いだり、帰りを待ちわびた。

 家での占いを終えて、明日には帰るシィーンのためにココナッツケーキを3つも焼いた。
 寝かせた方がしっとりとして美味しいのだ。
 喜ぶシィーンの顔を思いかべると、マキラの頬もゆるんだ。

 そして夜に屋敷に戻ったマキラは、二匹の仔虎と遊ぶ。

「あ、バグガル! お庭に行っちゃうの?」

 大広間には風通しをよくするために、ガラス張りの扉が沢山あって、庭に面した扉は開放してある。
 いたずらっ子なバクガルが、羽虫を追いかけて庭へ行ってしまったのだ。
 庭に出ることをシィーンに止められてはいないが、広い庭なのでマキラは迷ってしまいそうだし使用人に会いそうだ、と一人で出た事はなかった。
 しかし、この広い庭がすべて屋敷の庭だなんて信じられない。

「……これが自宅だなんて本当に信じられないわ……でも支給されているのかもしれないものね。誰かに会ってしまったら嫌だわ……。バクガルー! あ、ティンシャーまで行っちゃわないで~! 追いかけっこじゃないのよ! 早く戻りましょ!」

 噴水を抜けて、バラの香るバラ園の方へ駆けて行く二匹が見える。

「トゲが刺さったら大変だわ。早く二匹を連れ戻さないと……!」

「おい、そこのお前……停まれ!!」

「えっ?」

 突然、怒鳴り声をかけられて驚くマキラ。
 振り向くと、鬼の形相をした女が立っていた。
 
 
 
 

 
 
 
< 72 / 79 >

この作品をシェア

pagetop