亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

シィーンの正体・愛の終わり


 突然、女から声をかけられたマキラ。

 怒鳴り声だけでも、ギクリと心が凍りつく。
 
 夜の庭園のイルミネーションは淡い光で顔は薄暗く、ハッキリとは見えない。
 女の後ろには、まだ二人、女がいる。
  
 一体誰……? 警備員……?
 まさかシィーンの家族? と思うと変な汗が滲み出る。

「貴様は、口も聞けぬのか?」

「……あ、あの……私は……」
 
 声をかけてきた女は、異国のドレスを着ていた。
 髪は真っ黒で、大きく波打った激しいパーマ。
 それが怨念のオーラのように見える。

 彼女が一歩進んで来て、顔がやっと見えた。
 肌の色は白く、真っ赤な口紅に、アイシャドウは濃く紫色だ。
 その瞳は憎しみに染まって、激しくマキラを睨んでいる。
 
「返事をせぬか。これは余程の無能者か、阿呆か」
 
「……そのドレスは、ホマス帝国式の……」

 自国を滅ぼした国のドレスのデザインは、忘れない。
 暑さに考慮した作りにはなっているが、女性でも権力を示すような大きな襟、幅広く広がる紫のスカートには、真っ黒な蝶の刺繍。
 手には大きな黒レースの扇子。
 紫と黒を基調にした重々しいドレスは、この国で見るには違和感しかない。

 シィーンの親族とは思えなかった。
 それに、この憎しみの渦は一体……。
 マキラは、毒に当てられたように気分が悪くなる。

「下品な庶民ふせいが、よく知っているな!」

 ホマス帝国の上流階級の女性は、男のような喋り方をすると聞いたことがある。
 殺気の含んだ、煙草でかすれたような怒鳴り声。
 しかし、そんな事でマキラは怯まない。
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