亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 キッと、マキラも女を見つめる。

「無能に阿呆に下品な庶民……? 随分な言い草ですね。貴女こそ何故この庭にいるんです?」

「なにぃ……?」

 怯えて跪くとでも思っていたのか、マキラが透き通るような声で言い返したので女は眉間にシワを寄せた。

「この庭も宮殿もいずれは、私の物になる。それを横から掻っ攫おうとでも思っているのか!? 覇王の宮殿に、覇王ガザルシィーンに近づく下民めが!!」

「ガザルシィーン……? ……って……え……?」

 マキラの心臓がドクンと脈を打つ。
 今、彼女はなんて言ったの……?

「お前は、覇王の名すら知らんのか!」

「……は、覇王……」

「ふんっ……まぁ覇王と言っても、今だけの名誉だがな……我が夫になるまでのな」

 覇王……。
 覇王ガザルシィーン……?
 我が夫?
 マキラの心に、嫌なざわめきが波立っていく。

「……なにそれ……そんな……」

 そんな、そんなことがあるわけがない……。
  
「姫様、どうかお戻りに。ハルドゥーン将軍の留守中でも、ここの立ち入りは禁止されております。きっと覇王様からの命令です。バレたらどうなるか! こんな女は、覇王が連れ込んだ、ただの遊女でございますよ」

 ハルドゥーン将軍……?
 また、聞いたことのある名だ。
 ハルドゥーンと関わりのある姫といえば……。
 そしてハルドゥーンは……覇王の片腕将軍……。

「そうです姫様! 覇王様は男盛り! 女遊びをするに決まっているじゃないですか。ただの遊女などかまう事はありません。早く迎賓館に戻りましょう! 覇王様の庭から早く出なければ……」

 後ろの二人は、侍女のようだ。
 侍女達がどうにか、この女を庭から連れ出そうと焦っているのがわかる。

 此処が……覇王の庭……?
 私が……遊女?
 女遊び……?

 一つの言葉を聴くたびに……ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てて……。
 何かが崩れていく音がする……。

「うるさい! 占い師の召喚もあやつに邪魔されたのも腹立たしいのに! こんな遊女を宮殿に住まわすなど! 忌々しい男! ガザルシィーンめ!」

 占い師の召喚……?
 そして、ホマス帝国のドレス……。
 
「貴女は……じゃあ……エリザ姫」

「ふん! いずれ世界の女王になる存在が、お前ごとき野良猫に名乗るものか!」

 この女はエリザ姫で間違いない。
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