亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 何もかもが青天の霹靂。

 シィーン……貴方は……まさか。

 彼女が怒り狂って、此処にやってきた。
 つまりは……覇王とは……。

 覇王は……シィーンは……。

 ……シィーン、貴方は……。

 混乱で、頭が上手に動かない。

「ここは……覇王様の宮殿なの……?」

「お前は……! 当たり前の事を聞いて……! ふざけているのか!」

 まさかそんな……。
 シィーンが……?
 そんなわけない、ありえない……。

 でも、やっぱりそうなの……覇王は……。

 震える手を片手で握りしめた。

「エリザ様! お戻りに!」

「ええい! うるさい!!」
 
 二人の侍女を叱責し、エリザ姫はドレスの裾から短剣を取り出した。

 ギラリと光る短剣の刃。
 
「あの男もこの女も……妾をバカにしているのか! お前の生首を見せつけて、泥棒猫は始末したと言ってやろうぞ!」

 混乱する頭。
 でも、この女は帝国のエリザ姫。
 自分の祖国を滅ぼし、全てを奪った国の姫。

 覇王の婚約者……?
 違うって言ってた……でも……。
 彼女の怒りは、彼への愛……?

 シィーン。
 
 ガザルシィーンって誰?

 シィーン……シィーン。

 わからない。わからない。

「この腐った遊女め! 女王の名の元に処してくれるわ!!」

 だが、この強烈な殺意が自分に向けられている。
 震えよ止まって……冷静になりなさい! マキラ!

「死ね……!!」

 エリザ姫の立ち振舞は、素人ではなかった。
 しかしマキラも、ベルト剣を一瞬で抜く。

 侍女の悲鳴が響いた。
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