亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 ◇◇◇

 エリザの短剣がどこかへ飛んで行って、悲鳴と怒声が響く。

 マキラは走った。
 後ろで、仔虎の悲しい鳴き声が聞こえた気がした。
 
 それでも走って、走って、走って、二人の愛の巣だった屋敷……宮殿を飛び出した。

 覇王の宮殿は、城の一番奥にあったのだ。
 入るにも出るにも、厳重な警備が敷かれていた。

 目眩がして、震えを堪えながら、マキラは走る。

 必死で外へ出るために身を潜め、塀を登り、ボロ布を纏い馬車の影に隠れて、広大な城からやっと抜け出すことができたのだった。

 そこから歩き続け、眠らず歩き続けて……やっと次の日の昼間に自分の家へ辿り着いた。

 シィーンからのプレゼントを脱ぎ捨て、あるだけの金を持って、すぐに旅の支度をした。
 腰にまたベルト剣を巻き、重たいリュックを背負い、マントを羽織って、分厚いターバンで顔を隠す。
 そして玄関には『占いは無期限休業します』それを書いた紙を貼って……マキラはまた歩き出す。

 覇王が行った地域とは、真逆の地域へ向かう馬車に乗った。

 何も考えられない。

 ただ、愛が終わった事だけはわかった――。
 
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