亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「そうだ、あの女の首を早く持って来い!! 忌々しい!!」 

「黙れエリザ。とんでもないことをしてくれたな……迎賓館か自分の城へ戻るがいい。此処へは二度と来るな」

 声を荒げず、冷静に話す。

「貴様!! 婚約者の妾をないがしろにして!」

「婚約者だと? 俺は君を婚約者だと認めたことなど一度もない」

「ぐ……! しかし!」

「静かにしろエリザ。ハルドゥーンを脅し、一般市民の占い師を強制的に連れ出すと脅した一件。俺は注意だけで済ませたな。しかし今度ばかりは注意だけでは済まんぞ……彼女はどこだ? まさか怪我をさせたわけではないだろうな」

 静かに……だが、心の底からの怒りを抑えたシィーンの瞳。
 彼に睨まれたエリザは、硬直して動けなくなった。 

「ひ、姫様の刃は当たっておりませぬ! あ、あの高貴な御方様はお逃げになられ、どこに行ったかはわかりませぬ! ……どうかお許しくださいまし!!」

「わ、私どもも、あの麗しい御婦人が心配で心配で探し続けております……! どうか御慈悲を!!」

 後ろの侍女達が叫んだ。

「何が婦人だ! あんな謀反を起こした泥棒猫の雑巾売女などすぐ殺せ! 死刑だ! ガザルシィーン!!」

 シィーンの怒りのオーラが揺れた。

「いいか、エリザ。彼女は俺の最愛、結婚を申し込んでいる女性だ。二度とそんな風に呼ぶな……わかったな!!」

 爆発が起きたかのような、怒気の衝撃。

「うがっ……」
 
 今度こそ、シィーンの怒りに触れたエリザはそのまま卒倒して侍女二人に支えられた。
 女性に対して怒気を向ける事など今までなかったが、もう怒りを押さえることができなかった。

「ハルドゥーンと宮殿守護隊長を此処へ呼べ! マキラーー!!」
 
 そんな姫には目もくれず、シィーンは走り出し宮殿内でマキラを探す。

「マキラ!! どこだ!? 怪我はないか!? どこにいるんだ!! マキラーーーー!!」
 
 しかし、慌てふためいている執事や使用人達を見れば、探し続けても見つからないのはすぐに理解できた。
 エリザとのやり取りを目撃した使用人は、いない。
 
 ただ血痕などはなく、庭が荒れているのはエリザが暴れまわったからだと説明された。
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