亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

「マキラ!!」

 大広間のローテーブルに、置かれたままのココナッツケーキ。
 寝室には残されたままの、エンゲージリング。
 マキラのために仕立てたガウンも、そのまま。
 二匹の仔虎は、ベッドでマキラを求めて悲しく鳴いていた。
 シィーンは優しく二匹を抱き締める。

「ティンシャー、バクガル……怖い思いをさせたな……マキラはどこへ行った……? 教えてくれ、俺のマキラはどこだ?」

 しかし二匹は、クンクンと鳴くばかり。
 マキラの姿は見当たらない。
 シィーンはまた、執事の下へ戻る。
 マキラのために人払いをしていたので、使用人達もマキラがいない事に気付いたのが朝だった。
 一度はこの場を去ったエリザが、怒りが収まらず庭に来て暴れ出したので、その騒動でやっと気付いたとのことだった。 

「マキラ……」

 どこかで震えているのではと、シィーンも思った。
 本来ならば、入るのも出るのも、難しい覇王の城。

「宮殿内だけではなく、城内に異常はないか。使用人以外の女性の目撃情報など、些細なことでもいい」

「城内では、昨晩は……猫が迷い込んだような小さな騒動があったくらいだと……あと貨物の雨よけの布が一枚紛失したくらいです」

 マキラは……泣いて怯える女性ではない……あの強く気高い心……。
 彼女なら、この宮殿を囲む城からも逃げ出せる……!
 察したシィーンは、すぐにマキラの家へ向かった。

 そして、マキラの玄関の貼り紙を見たシィーンは全てを悟った。

 エリザ姫とのやり取りで、彼女はシィーンの正体を知ったのだ。
 暴言を吐かれ、剣まで振るわれた……。

 そして傷つき、必死に宮殿を去り、全てを置いてこの街を出て行った――。

「……マキラ……最悪な知られ方をしてしまった……どれだけ君を傷つけたことか……」

 この地域では珍しい時期に、雨が降り出した。
 愛しい恋人が消えた……心に空いた穴に、虚しく雨が降り注ぐ。
 
 探す当てなど、何もない――。
 それでも、愛するマキラを探すため、歩き出すシィーン。

「俺は絶対に諦めたりしない……必ず君を、探し出す……」

 雨は更に激しく、街に降り注ぐ。
 綺麗に咲いていたルビーニヨンは、くったりと垂れ始めた。
 荒れて稲妻が光る豪雨になり、覇王ガザルシィーンに容赦なく降り注いだ。

 
< 79 / 83 >

この作品をシェア

pagetop