亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

彼から逃げて……


「はぁ……」

 マキラは一人、ため息をつく。
 髪はひとつにまとめ、上からフード付きのマントをかぶっている。
 金目のものは身体に密着するように隠し、偽装帯剣許可証は持っているので、堂々と帯剣もしていた。
 
 一人旅は危険だ。
 なので一見、男にも見えるようにしているのだ。

 彼女は夕方の賑わうバザールにある食堂で、食事をとっていた。
 とは言っても、市場で買った葡萄を少しだけ。
 食欲は全く無い。
 それでも食べなければと、無理して食べている。
 
「はぁ……」

 エリザ姫とのトラブルから数日――。
 逃げられるだけ、逃げようと一心不乱に距離だけ稼いだ。

 行先はまだ決まっていない。

 女の一人旅は危険だ。
 いつも警戒し、気を緩ませてはいけない。
 だから心身ともに疲弊している。

 甘酸っぱいぶとうも、今は味もしない。

「今日は……いい宿に泊まろ……お酒も飲みたいし……」

 まだ、沢山残っているぶどうを一粒だけ飲み込んだ。
 この街も、至る所に覇王生誕祝いのガーランドや旗が飾ってある。

 皆が覇王の生誕祭の話題を笑顔で話し、子供達は覇王ごっこを楽しそうにしていた。

「……覇王……」

 どこに行っても覇王だ。

「宿はあっちかな……綺麗な道ね。すごく素敵な街だわ……」

 この地域は、弱い立場の観光客を守る運動が盛んなようで、女性一人でも安心して泊まれる宿が少しだがある。
 ここから次の街までの馬車や、用心棒も案内してくれるのだ。
 だから、女性や老人、小さな子供のいる家族連れも多い。

 旅人や観光客の安全に考慮した街など、初めて聞いた。
 
 その噂を聞いて、此処までやってきたのだ。
 それも、覇王が起こした政策の一部だという。
 
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