【完結】亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される
「マキラ!!」
大広間のローテーブルに、置かれたままのココナッツケーキ。
寝室には残されたままの、エンゲージリング。
マキラのために仕立てたガウンも、そのまま。
二匹の仔虎は、ベッドでマキラを求めて悲しく鳴いていた。
シィーンは優しく二匹を抱き締める。
「ティンシャー、バクガル……怖い思いをさせたな……マキラはどこへ行った……? 教えてくれ、俺のマキラはどこだ?」
しかし二匹は、クンクンと鳴くばかり。
マキラの姿は見当たらない。
シィーンはまた、執事の下へ戻る。
マキラのために人払いをしていたので、使用人達もマキラがいない事に気付いたのが朝だった。
一度はこの場を去ったエリザが、怒りが収まらず庭に来て暴れ出したので、その騒動でやっと気付いたとのことだった。
「マキラ……」
どこかで震えているのではと、シィーンも思った。
本来ならば、入るのも出るのも、難しい覇王の城。
「宮殿内だけではなく、城内に異常はないか。使用人以外の女性の目撃情報など、些細なことでもいい」
「城内では、昨晩は……猫が迷い込んだような小さな騒動があったくらいだと……あと貨物の雨よけの布が一枚紛失したくらいです」
マキラは……泣いて怯える女性ではない……あの強く気高い心……。
彼女なら、この宮殿を囲む城からも逃げ出せる……!
察したシィーンは、すぐにマキラの家へ向かった。
そして、マキラの玄関の貼り紙を見たシィーンは全てを悟った。
エリザ姫とのやり取りで、彼女はシィーンの正体を知ったのだ。
暴言を吐かれ、剣まで振るわれた……。
そして傷つき、必死に宮殿を去り、全てを置いてこの街を出て行った――。
「……マキラ……最悪な知られ方をしてしまった……どれだけ君を傷つけたことか……」
この地域では珍しい時期に、雨が降り出した。
愛しい恋人が消えた……心に空いた穴に、虚しく雨が降り注ぐ。
探す当てなど、何もない――。
それでも、愛するマキラを探すため、歩き出すシィーン。
「俺は絶対に諦めたりしない……必ず君を、探し出す……」
雨は更に激しく、街に降り注ぐ。
綺麗に咲いていたルビーニヨンは、くったりと垂れ始めた。
荒れて稲妻が光る豪雨になり、覇王ガザルシィーンに容赦なく降り注いだ。