亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 わかってはいるけど、日常に関わることもない存在の覇王を避けて生きてきた。

 この感情は、きっと誰も、わからない……汚い心で捻くれた心で、ごめんなさい。
 でもずっと、心の底で抱えてきた闇だった。
 
 覇王には感謝しなくてはいけないのに、そんなねじ曲がった恨みを持っている自分が覇王の傍にいることなど許されない。
 心が穢れている亡国の王女などが、傍にいていいわけがない。
 
 何よりあの姫と、婚約を結ばなければいけない関係であるのは本当なのだろう。
 それはもう世界に関わる婚姻になる――そんな間に入れるわけがない。

 輝く覇王と、滅びた国の心が腐った王女が、結ばれるわけにはいかないのだ。

 だけど……マキラの瞳から涙が溢れる。
 
 シィーンには相応しい女性が、きっといる……。

 エリザ姫は問題外だ。シィーンには似合わない。
 でも、誰であっても、あの腕に抱かれる他の女性なんて……想像したくなかった。  

 でも、これからきっと覇王が誰かと結婚するという話題は、いつか耳に入ってくるだろう。

「シィーン……」

 涙が溢れるのは、無理矢理引きちぎった心が辛く痛むから。

 まさか……貴方が覇王だなんて……。

 深く深く、愛した男の秘密。
 裏切られたわけではない。
 自分が聞かなかったから悪いのだ。

 少しは……そうなのでは? と思うところもあった。
 あの力に、あの宮殿、何よりあの魅力……でも、誰が目の前の恋人を覇王だなんて思うだろうか。

 あの時、逃げるしかできなかった。
 そして今も逃げている……。
 もう戻ることなんかできない。

 なんの話もせずに、逃げた。
 きっとシィーンも呆れて、私のことなど嫌っているだろう。
 
 それでも、あの愛の日々を思い出してしまう。

 もう失ってしまった愛が、心を引き裂くように辛い。

 あの愛だけの甘い時間……何もかも初めての経験だった。
 愛を囁かれるのも、優しい口づけも、温かい抱擁も……情熱的に抱かれることも……。

 ほんの少し前まで、その全てを知らずに生きてきたのに。
 今は、その全てを失った切り口が血が吹き出るように痛い。

 うわべだけでわかったふりをして、恋に悩む女性たちにアドバイスをしてきてしまったんだと思い知る。

「ううっ……うわぁああ!」

 マキラは泣いた。
 
 愛の絶頂から、その愛を失う。
 それが、これほどまでに辛いものだとは……。
 
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