亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 辛い、辛い……絶望。
 
 マキラは泣いて泣いて、泣いても涙は枯れなかった。

 それでも、またマキラは旅に出る。
 生き残れ……それもまた、血の呪い。

 自分の未来はわからないが、勘は当たる。
 風を読み、歩いて歩いて……エイードから大分離れた。

 もう急ぐことはないと……楽な旅路を選んだ。

「わぁ綺麗な海ね……潮風が気持ちいい」

 海の香りを含んだ風に、煌めく青碧の海。
 街は白い壁の家が立ち並ぶ。

 港町の海が綺麗で、マキラは少しそこで滞在することにした。
 まだ宿住まいだが、女将に了解を得て食堂で占いを始めると、宿代くらいは稼げるようになってきたのだ。
 心の傷を抱えて、悲劇の女でいても明日の生活はできない。
 きっと心配しているであろう侍女にも、港町にいると手紙を出した。
 
 それでも毎夜思い出す……あの人。
 毎晩、枕を濡らしてマキラは眠りについた。

 シィーンの宮殿から飛び出して、一ヶ月ほど経った頃だった。

「……君……もしかして、エフェーミアじゃないかい……?」

 食堂で占いが終わり、もう部屋へ戻ろうとした時だった。
 一人の男に声をかけられたのだが、驚いて腰の短剣へ手をやる。

「誰……!?」
 
 『エフェーミア』それはマキラの王女としての名だったからだ。
 恐ろしい瞬間だった。
 この食堂を血まみれにしても、戦わなければいけないと嫌な汗が吹き出した。

「待って! 僕は君の従兄弟のウィンタールだよ……!」

 小声ながらも彼は叫ぶ。
 食堂にはもう人はいないし、台所で片付けをしている女将たちには聞かれていない。

「……ウィンタール……? ウィン兄様なのですか……?」

「生きていたんだね! 驚いたよ……まさか! あぁ~~!! 感激だ!!」

「しーっ! こんな場所でよしましょう。危険すぎます!」

 マキラは慌てて彼に言う。

「ここの宿泊客かい? まさかこんな場所で出逢うとは! 美しくなったね~~~!!」

「ウィン兄様……お静かに」

 女将が心配そうにこちらを見たので、大丈夫だと合図を送った。
 ウィンタールは何も気にしていないように、大声で笑う。
 寒気がするような金属音のような笑い声だ。

「あぁ、ごめんよ。興奮してしまった!」

「いえ……私も驚いたのは確かですから……」

「積もる話をしようじゃないかエフェーミア……僕の婚約者よ」

 国が滅びてから、初めて会った血族者。
 
 ウィンタールは白い肌のまま、にっこりと歯を見せて笑った。
 全然、爽やかでもなく、いやらしさを感じる笑みだった。

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