【完結】亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

元婚約者・ウィンタール


 ウィンタールは、命からがら逃げた時に持ち出した、王家の紋章と彼の名前入りの鏡を見せてくれた。
 マキラは持ち出した紋章入りの装飾品は全て紋章を外し、お金に変えてしまっている。
 紋章部分も溶かして、侍女たちと分けたのでもう存在していない。

「どうだい? 本物だよ、わかるかな?」

「えぇ……わかります。お祖父様の生誕祝いの時の品ですね」

「いかにも」

 まぁそんな証拠がなくとも、いやらしい笑みの顔を見れば彼だとわかった。

「個室で話せる酒場があるんだ。もちろん、いかがわしくない上品なお店だよ。この港にはそういう決まりがあるんだ。だからそこへ行って話そう」

「……そうですね。わかりました」

 港町といえば、船乗り達が遊ぶ、卑猥な繁華街が有名になる。
 しかし、此処も一定の区域を除いて観光客が楽しめる街作りを目指しているとのことだ。

 世界が統一され、平和になった今。
 観光資源が地域を活性化させていく。
 それぞれに地域に住まう民が、自分の土地を愛することがまず大事だと覇王が言っていたと、宿の女将が力説していた。

 マキラはまたターバンを巻いてマントを羽織り、ウィンタールの後ろを歩く。
 潮の香りがして、大きな通りはまだまだ人が多い。

「そんな暑苦しい格好をしなくてもいいじゃないか~? 美しい君の姿を見せつければいいのに」

「いえ」
 
 いくら治安がよくなってきてるとはいえ、女一人でそんな事をしたらどうなるか。
 ウィンタールは見た目も細く、ヒョロヒョロしていて頼りがいなどまるで感じられない。

「あぁそこの角を曲がったところだ。たかだか庶民の店なんだが、いい酒と肴を出すんだ」

「……そうですか……」

 自分だって、もう庶民なのに……とは言わなかった。
 マキラは警戒心は解いていないが、血族の生き残りがいた事は喜ぶべきことだ。
 ウィンタールもマキラが生きていた事を大層喜んで、上品な個室酒場で、色々な御馳走や酒を頼んでくれる。

「一応、姫君も妙齢の女性だ。扉は軽く開けておこう」

「お気遣い、ありがとうございます。でも私達の話を聞かれると困りますので……」

「それもそうだね。じゃあしっかりと閉めようか」

「は、はい……」

 そこまで言っていないのに……と思うが、仕方がない。
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