【完結】亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 そんなマキラを見て、ウィンタールはヘラヘラと笑う。

「あぁなんて可愛いエフェーミア。君が少女のように純粋な心のままでいてくれて僕は嬉しいよ」

「そ、そんな乙女の夢なんかじゃないのです。だからウィン兄様との婚約は……」

「あぁ、いいんだよ。わかるわかる、初恋だったのかな? そういうのは乙女の通過儀礼ってやつでさ、大人になる準備みたいなもんだよね……可愛いなぁ~」

「……あの……いえ、いいんです……ただ、婚約の話はもう……解消されているということでお願い致します」

 腑に落ちない返し方をされてしまって、気持ちが悪くなる。
 マキラの心の奥底の愛に、触れてほしくなかった。
  
「うーん、そっかぁ~~~。まぁ仕方ないね」

 すぐに引き下がってくれたウィンタールの言葉に、ホッとするマキラ。

「も、申し訳ありません」

「いいよ~~可愛いエフェーミア~。僕は血族のお兄さんでいいさ。とりあえず僕もこの街にしばらく滞在するよ。僕達は最後の生き残りだ。仲良くしようねエフェーミア。」

「あ……そうですね」

「ほらほら、心の傷を流すには酒にかぎる」

「いえ、そんな」

 この男と酒は飲みたくないと、思った。
 もともと、マキラは警戒心は人の何倍もある。
 すぐに一緒に酒を飲んでしまったシィーンが、本当に特別だったのだ。

「我らが亡国に、血族の再会として献杯せねば」

「……あ……」

 そう言われては、拒めはしない。

「これは、我が父もお気に入りの酒であった。女王もきっと好きだったであろう」

 見たこともない酒瓶だった。

「母様が……」

 マキラは母が、酒を飲む場面を見たことはなかった。
 でも、当時成人だったウィンタールが知っていることもあるだろう。 

「さぁ我が故国トラプスタと亡くなった数々の魂に祈りを……」

「……は、はい……皆に祈りを……」

 脳内を、駆け巡る思い出。
 涙が滲んで、マキラはウィンが注いでくれた酒を飲んだ。
 ショットグラスで飲んだ酒は、度数がすごく強かった。
 
 喉が熱い。
 
「時にエフェーミア……君の先読みの力は健在かい?」

「え? それは、もちろんです……修行はずっと続けておりますし」

「あぁよかった!」

 先読みの力は、トラプスタの王族女性だけが持ち、男性には発生しないのだ。
 だからウィンタールにも、先読みの力はない。
 
 その安堵したウィンタールの顔に、ゾッとした。
 そして流れ込んでくるウィンタールが歓喜する未来。
 
 やはり何かおかしい……!
 
「ごめんなさい。私、もう帰ります……! あっ……?」

 酷い目眩がして、立ち上がれない。

「ダメだよ~~エフェーミア……やっとやっと見つけたんだ。僕の可愛いお姫様~……いっひっひっひ」

 あぁ……ここまで努力して生きてきて、こんなところで終わるのか……とマキラは思う。
 混濁していく意識。

「……う……」

 最後に瞼に映ったのは、何度も愛を囁いてくれた優しいシィーンの微笑みだった。

  


 
 
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