【完結】亡国王女の占い師は、情熱の地で若き覇王に甘く優しく溺愛される

 手足の拘束が一瞬で千切られ、綺麗な織物のストールをかけられ、ふわりと優しく抱っこされる。
 真っ暗闇だったのが、輝いて靡くシィーンの髪と瞳が見えた。
 でも情熱的な赤い髪と瞳が、今はまばゆく青い光に包まれて紫色に見える。

「神……様……」

 聞いたことがある――覇王ガザルシィーンは、全ての力、神に愛された男だと――。
 火・水・風・土。
 そして光と闇。
 その全てを操ることができる、唯一無二で最強の男。
 その力を使う際には、彼の髪や瞳の色、肉体も変化し神の姿になるのだと――。

 圧倒的な強さ。

 だからこそ、彼は若干十七歳であらゆる国に打ち勝ち、世界を統一させたのだ。
 
「……あ、貴方……シィーン……なの?」

「そうだ俺だよ。少し、待っていてくれ」

 シィーンは光に包まれながら、宙に浮いていた。
 マキラを抱きながら、右手には輝く剣を携えている。

 そして足元には、崩れ落ちた建物。
 シィーンが、マキラが監禁されていた建物を一刀両断したのだ。
 瓦礫は人に当たらないように、二人の周りの宙に浮いている。

 常識では考えられない強さ――これが、覇王。

「あっ……ウィンタール……!」

 マキラは酒場で気を失ったあとに運ばれた先は、どうやら山の奥地にあるウィンタールのアジトのようだった。
 頑丈な石造りの塔の上に、監禁されていたのだ。
 
 建物の下部や地下では禁魔道具の生成もしているようで、材料が散らばってる。
 男達が慌てふためき、逃げていくのが見えた。

 シィーンが、すぅっと息を吸い込んだ。

「我が名はガザルシィーン、この世界を治める王である――!
 世界平和を掲げ、皆と手を取り合い、乱世を終わらせた後にも、まだ世を乱れさせ、人々を苦しめる者達よ。
 罪人として、罪を償うがよい! 我が軍の騎士たちよ! 一人残らず捕らえよ!!」

 天地が震え、山が湖が河が、そして人が震える迫力だった。
 宙に浮いていた瓦礫は、人を避け裏山に

 逃げていた男達が、恐怖に怯えてひっくり返る。

 すぐにそれを馬に乗った男達が駆けつけ、拘束する。
 騎馬兵のなかにハルドゥーン将軍の姿を見つけた。

 上空から見ていると、夢の中で劇でも見ているようだった。

 だけど、この温もりは夢じゃない……。

 しかし、そんなシィーンを見てもマキラの心は、荒れてしまう。

「怪我はないか? 恐ろしい思いをしただろう……すぐに」

「……っ……あ、私……、離して!!」

「マキラ」

「離して! このまま手を離してよぉ!」

 そんな事をすれば、上空から地面に落ち死んでしまう。
 それでも叫ばずにはいられなかった。

 彼の腕に抱かれていては、いけない存在なのだ。
 混乱する頭のなかで、それだけは駄目だとわかる。
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