異世界で炎上した乙女ゲー続編ヒロイン、結婚当日に友人王女が婚約者を寝取って婚約破棄なので諦めてた初恋の隣国王弟の攻略に戻ります
「婚約破棄か、婚前契約書の改訂か、どちらかの許可をください。お父様」
「却下だ。必要を感じない」
冷たく言われ、執務室の扉を指差しされた。
もう話はおしまいだ、出ていけ、の意味だ。
「お父様。その判断でよろしいのですか。パラディオ伯爵家の伯爵代理として正しい判断をされていると自信を持って断言できますか」
「うるさい! 口ばかり達者になって、女の癖に小賢しい!」
これ以上の口論が鬱陶しくなったのだろう。
父テレンスは自分のほうから執務室を出て行こうとした。
その際、引き留めようとしたエステイアにわざと強めにぶつかった。
四十代の父親が年頃の娘にやるには、随分と大人げない嫌がらせだった。
父親に向けて腕を伸ばしていたエステイアは、ぶつかられて体勢を崩した。
そして床に倒れた。
執務室には絨毯が敷かれてあったので、本来なら倒れてもエステイアの身体を受け止めてくれるはずだった。
ところが倒れた方向が悪かった。
執務机の後方には来客用の革貼りのソファとテーブルがある。
ソファには肘置きがあった。材質は木製で硬い。
その肘置きの角に、ガツン……とエステイアの後頭部が直撃した。
しん、と執務室が静まり返った。
「お、お嬢様! エステイアお嬢様!?」
室内に控えていた侍女や執事が慌てて倒れたエステイアに駆け寄る。
「わ、私のせいじゃないぞ! エステイア、お前が鈍臭いから悪いのだ!」
「旦那様、あなたという方はどこまで……! 大切なお嬢様ではありませんか!」
「大切? 誰が? 好きでもない女と義務で作らされただけの子供だ、いっそそのまま死んでしまえばいい!」
倒れたエステイアに狼狽える伯爵代理テレンスは、娘の侍女に鋭く叱責されて反論もできず、捨て台詞を吐いて逃げるように立ち去っていった。
「マリナ、放っておけ! それより医者の手配を!」
「はい!」
(好きでもない女と、義務で作らされた子供……)
慌ただしく動く周囲と、後頭部の激痛の中でも、父テレンスのその言葉はエステイアの耳にはっきりと聞こえた。
生前の母親から、父とは政略結婚だったことは聞いていた。
なぜこの、ろくでもない夫を放置しているかと幼い頃のエステイアは聞いたことがある。
『テレンスは犠牲になったのよ』
何の、とまでは母カタリナは語らなかった。
(もう父も、あの婚約者も要らない。……この家から解放して差し上げます。お父様)
そしてエステイアの意識は途切れた。
「却下だ。必要を感じない」
冷たく言われ、執務室の扉を指差しされた。
もう話はおしまいだ、出ていけ、の意味だ。
「お父様。その判断でよろしいのですか。パラディオ伯爵家の伯爵代理として正しい判断をされていると自信を持って断言できますか」
「うるさい! 口ばかり達者になって、女の癖に小賢しい!」
これ以上の口論が鬱陶しくなったのだろう。
父テレンスは自分のほうから執務室を出て行こうとした。
その際、引き留めようとしたエステイアにわざと強めにぶつかった。
四十代の父親が年頃の娘にやるには、随分と大人げない嫌がらせだった。
父親に向けて腕を伸ばしていたエステイアは、ぶつかられて体勢を崩した。
そして床に倒れた。
執務室には絨毯が敷かれてあったので、本来なら倒れてもエステイアの身体を受け止めてくれるはずだった。
ところが倒れた方向が悪かった。
執務机の後方には来客用の革貼りのソファとテーブルがある。
ソファには肘置きがあった。材質は木製で硬い。
その肘置きの角に、ガツン……とエステイアの後頭部が直撃した。
しん、と執務室が静まり返った。
「お、お嬢様! エステイアお嬢様!?」
室内に控えていた侍女や執事が慌てて倒れたエステイアに駆け寄る。
「わ、私のせいじゃないぞ! エステイア、お前が鈍臭いから悪いのだ!」
「旦那様、あなたという方はどこまで……! 大切なお嬢様ではありませんか!」
「大切? 誰が? 好きでもない女と義務で作らされただけの子供だ、いっそそのまま死んでしまえばいい!」
倒れたエステイアに狼狽える伯爵代理テレンスは、娘の侍女に鋭く叱責されて反論もできず、捨て台詞を吐いて逃げるように立ち去っていった。
「マリナ、放っておけ! それより医者の手配を!」
「はい!」
(好きでもない女と、義務で作らされた子供……)
慌ただしく動く周囲と、後頭部の激痛の中でも、父テレンスのその言葉はエステイアの耳にはっきりと聞こえた。
生前の母親から、父とは政略結婚だったことは聞いていた。
なぜこの、ろくでもない夫を放置しているかと幼い頃のエステイアは聞いたことがある。
『テレンスは犠牲になったのよ』
何の、とまでは母カタリナは語らなかった。
(もう父も、あの婚約者も要らない。……この家から解放して差し上げます。お父様)
そしてエステイアの意識は途切れた。