異世界で炎上した乙女ゲー続編ヒロイン、結婚当日に友人王女が婚約者を寝取って婚約破棄なので諦めてた初恋の隣国王弟の攻略に戻ります

その頃、父親と元婚約者は

 濃いめのミルクティ色の癖毛と緑の瞳の美男テレンスは、金髪青目の自分とよく似たこちらも美しい青年アルフォートを引きずるように道連れにして山道を歩いていた。

 向かうはプリズム王国の聖域、アヴァロン山脈だ。

「叔父貴ぃ。こんな遠回りして何やろうっていうんだ?」

 パラディオ伯爵家を出る際、テレンスは軟禁されていたアルフォートを強引に連れ出していた。
 護衛の騎士たちをわざわざ魔法で眠らせて。テレンスは風魔法の使い手。風魔法には人間の精神に作用する術も多い。この手の悪戯は学生時代からお手の物だった。

 しかも一度、〝愛人〟親子のいる別宅を経由してから、アヴァロン山脈に登っている。
 監視の目を欺けていたら良いのだが。

「こんな三文芝居いつまでもやってられるか! アルフォート、お前だってそうだろう!?」
「いやー俺はサンドローザ様がいればそれでいいかなあって」

 まさか学生時代の憧れの王女様と自分が両想いとは思いもしなかった。
 しかもお互い初体験で初めてを捧げ合った。まさに奇跡。
 やに下がった顔でアルフォートはへらへら笑っている。

「この野郎。エステイアの結婚式を台無しにした報いは必ず受けさせてやるからな!」
「あー……。それ叔父貴に報復される前に隣国の王弟殿下に殺されそう」

 美形の叔父が凄んでくるがあんまり怖くはない。もっと怖いものをアルフォートは知っている。実家の祖父マーリンだ。

「お前さえエステイアと結婚してたら親父が賢者の石をくれたのに。そしたらもうポーション研究も必要なくなる。エステイアがカタリナの二の舞になったらどうしてくれる!?」
「カタリナ伯母さん、魔物退治の過労で亡くなったんだっけ? 叔父貴が代わりに戦ってやりゃよかったのに」
「そのカタリナが私を戦わせなかったんだ! 代わりにポーション開発で助けてくれって言うから、私は……私は……くそ、まさかあんなに早く死んでしまうなんて」

 悔やむテレンスをよそにアルフォートはそびえ立つ山脈を見上げた。

「おい見ろよ、叔父貴。ヤバいぞ、中腹から上が瘴気で真っ黒。しかも」

 ギャオーン……と遠くからドラゴンの鳴き声まで響いてきている。

「こんな場所に本当に聖杯があるのかよ? 情報間違ってないか?」
「学生時代のロゼット王妃やカタリナと一緒に、山頂付近で確かにこの目で見ている。……王家がエステイアに目をつける前に確保だ!」
「……何で俺まで巻き込むかな」

 一度寄った愛人宅で装備は整えてきたが、テレンスもアルフォートも典型的な魔法使いで剣や弓など武器は苦手だ。
 この状態で魔物に襲われたら結構きつい。

「『条件を満たした者の願いを叶える』だっけ? そんな眉唾ものがあるとは思えねえけどな」

 かつてロゼット王妃とアーサー国王たちは同じアヴァロン山脈に登って聖杯を探し出し、プリズム王国を覆い尽くそうとしていた黒竜の瘴気被害を解決した。

 二人は結ばれてサンドローザ王女が生まれたが、彼女はロゼット王妃が持っていた光の魔力を受け継がなかった。
 受け継いだのは父王の火の魔力だ。そこそこ強いが両親を上回るほどじゃなかった。

(そこで何でわざわざ親戚とはいえ王家の遠縁のモリスン子爵家を思い出すんだよ。サンドローザ様が跡継ぎでいいじゃないか。母親が平民なのが気に食わないならモリスン子爵家だって王族の血はだいぶ薄まってるのに)

 ただでさえ面倒くさい王家の事情に巻き込まれているのに、特にテレンスは妻カタリナを早死にさせたことで、カタリナのファンだったロゼット王妃に恨まれている。

 その上、アーサー国王は学生時代から寵愛していたテレンスをまだ諦めていないとの噂もある。

(叔父貴なんて顔が良いだけのオッサンじゃん。国王なら若くてピチピチの女でも男でもよりどりみどりじゃないのかね)

 そこに来て最近また国内に広がり始めた瘴気被害。

(今の王家から天命が薄れてきてるってことなのかねえ)

 言い伝えでは、国王が良く治める時代にはアヴァロン山脈を寝ぐらにする黒竜は大人しく、瘴気を発しない。
 国が乱れたときに暴れ出して、瘴気で国内を汚染し、人の心を乱す。そう言われていた。


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