異世界で炎上した乙女ゲー続編ヒロイン、結婚当日に友人王女が婚約者を寝取って婚約破棄なので諦めてた初恋の隣国王弟の攻略に戻ります
アルフォートの失恋
「王の統治が乱れるとアヴァロン山脈の魔物が瘴気を発生させ、聖杯で浄化する。それがこの国のシステムです」
ひとつひとつ、ヒューレットが丁寧に説明していく。
すでに王女のサンドローザが知っていることも多かったが、初めて聞くことも多かった。
「これまでアーサー国王はこの国に善政を敷いてきましたが、反国王派は暗躍が激しい。かといって今さら王家の醜聞を表沙汰にもできない。国王夫妻の友人だったエステイア嬢のお母上カタリナ様も亡くなってしまった」
「そう説明してもらうと、父さんの状況はほんと絶望的よね」
「……アーサー陛下は常にご自身が座る王位の正当性に不安を感じておられたそうです。ロゼット王妃も妻として支え励ましておられたようですが……」
自分の立場や在り方の不確かさに、アーサー国王は少しずつ気鬱に陥り始めた。
真実の愛であるはずのロゼット王妃を遠ざけるようになり、国内には瘴気被害が増えてきた。
そして決定的な事件が起こる。
「……あたしがエステイアの婚約者を寝取ったことで父さんに心痛を与えてしまった。それが今回の黒竜騒ぎの原因のひとつ?」
恐る恐る相手の顔色を窺うサンドローザに、ヒューレットは答えなかった。代わりに、
「私は貴女をお慕いしております。サンドローザ様」
とじっと銀の瞳で、王女の赤い瞳を見つめた。
その眼差しに嘘はないように見える。
「幸い、エステイア嬢の機転で、彼女の婚儀を壊した女性が本当に王女かどうかは確定されていません。このまま無事に下山できたら、どうか私とこのまま婚約を続けて私を伴侶にしてください」
「そんな。でも、あたしはもう純潔でもなんでもないのに」
王族や高位貴族の結婚に必ず必要な条件をもうサンドローザは自分の意思で失っている。
けれどそんなことは些細な問題だとヒューレットは言う。
「あなたと初めての夜を過ごせなかったことは絶望でした。けれどどうか、私を最後の男にしていただけないでしょうか?」
「ひ、ヒューレット!?」
会話が途切れて、衣擦れの音がした。
「抱擁でもしてるのかな?」
それとも接吻? と呑気に麗しの青年、ヨシュアが呟いた。
岩壁に隔てられた隣で盛り上がっているのと反対に、こちら側では何とも言えない複雑な空気が漂っていた。
「嘘だろ……サンドローザ様……!」
王女の真実の愛の相手だったはずのアルフォートが蹲って頭を抱えている。
「うわ。振られたな、アルフォート」
「捨てられちゃったねえ。かわいそう」
「嘘だ、嘘だ……俺もサンドローザ様もお互いが初めてだったのに。なのに、なのに……っ」
え、童貞と処女で浮気? 不貞? とヨシュアが薄水色の目を見開いてビックリしている。
カーティスは赤茶の髪をがしがし掻いて、そうみたいだ、と短く肯定した。気まずい。
「ふん、仮にも王女ともあろう者が、あんなにチョロくてどうする!」
一方、王女たちの会話の話題にもなっていたテレンスはそう吐き捨てた。
特にコメントがないということは、ヒューレットが言っていたことで概ね正しいのだろう。
やがて、アルフォートはよろよろ覚束ない足取りで立ち上がった。
顔色が死人のように真っ白で血の気を失っている。
「叔父貴。俺、帰るわ。エステイアには慰謝料とかそういうのは実家のマーリンに請求してって言っといて」
「おい、どこへ行くつもりだ!?」
「旅でも出るわ……もう生きるのが辛い……」
そのまま、ふらふらしながらも、崩れかけていた岩の壁にぶつかりながら洞窟を出ていった。
テレンスたちがここに合流するとき崩した岩の先は入口に通じている。
「おい、アルフォート! 外はまだ黒竜が!」
「行かせてやりなよ。今は入口を出た辺りにドラゴンの気配がないから下山するなら今だろうし」
止めようとしたカーティスをヨシュアが更に止めた。
余談だがアルフォートはその後、本当に旅に出てしまったようでプリズム王国には生涯帰ってこなかった。
失意のまま、どこで生きて人生を終えたのかも謎のまま人々の記憶から消えた。
「そんなに公爵家の男が甘いわけがない。誠意を見せるため真実を話したのだろうが……。ふん、これからのあの男がどう動くか見ものだな」
さて、と呟いてテレンスは今度は反対側の娘とその元彼もどきがいるほうの空間に術を使った。
『セドリック。今、私たちしかいない。だから聞かせて。……私のこと、どう思ってる?』
こちらはこちらで、何だか甘ったるい雰囲気だった。
ひとつひとつ、ヒューレットが丁寧に説明していく。
すでに王女のサンドローザが知っていることも多かったが、初めて聞くことも多かった。
「これまでアーサー国王はこの国に善政を敷いてきましたが、反国王派は暗躍が激しい。かといって今さら王家の醜聞を表沙汰にもできない。国王夫妻の友人だったエステイア嬢のお母上カタリナ様も亡くなってしまった」
「そう説明してもらうと、父さんの状況はほんと絶望的よね」
「……アーサー陛下は常にご自身が座る王位の正当性に不安を感じておられたそうです。ロゼット王妃も妻として支え励ましておられたようですが……」
自分の立場や在り方の不確かさに、アーサー国王は少しずつ気鬱に陥り始めた。
真実の愛であるはずのロゼット王妃を遠ざけるようになり、国内には瘴気被害が増えてきた。
そして決定的な事件が起こる。
「……あたしがエステイアの婚約者を寝取ったことで父さんに心痛を与えてしまった。それが今回の黒竜騒ぎの原因のひとつ?」
恐る恐る相手の顔色を窺うサンドローザに、ヒューレットは答えなかった。代わりに、
「私は貴女をお慕いしております。サンドローザ様」
とじっと銀の瞳で、王女の赤い瞳を見つめた。
その眼差しに嘘はないように見える。
「幸い、エステイア嬢の機転で、彼女の婚儀を壊した女性が本当に王女かどうかは確定されていません。このまま無事に下山できたら、どうか私とこのまま婚約を続けて私を伴侶にしてください」
「そんな。でも、あたしはもう純潔でもなんでもないのに」
王族や高位貴族の結婚に必ず必要な条件をもうサンドローザは自分の意思で失っている。
けれどそんなことは些細な問題だとヒューレットは言う。
「あなたと初めての夜を過ごせなかったことは絶望でした。けれどどうか、私を最後の男にしていただけないでしょうか?」
「ひ、ヒューレット!?」
会話が途切れて、衣擦れの音がした。
「抱擁でもしてるのかな?」
それとも接吻? と呑気に麗しの青年、ヨシュアが呟いた。
岩壁に隔てられた隣で盛り上がっているのと反対に、こちら側では何とも言えない複雑な空気が漂っていた。
「嘘だろ……サンドローザ様……!」
王女の真実の愛の相手だったはずのアルフォートが蹲って頭を抱えている。
「うわ。振られたな、アルフォート」
「捨てられちゃったねえ。かわいそう」
「嘘だ、嘘だ……俺もサンドローザ様もお互いが初めてだったのに。なのに、なのに……っ」
え、童貞と処女で浮気? 不貞? とヨシュアが薄水色の目を見開いてビックリしている。
カーティスは赤茶の髪をがしがし掻いて、そうみたいだ、と短く肯定した。気まずい。
「ふん、仮にも王女ともあろう者が、あんなにチョロくてどうする!」
一方、王女たちの会話の話題にもなっていたテレンスはそう吐き捨てた。
特にコメントがないということは、ヒューレットが言っていたことで概ね正しいのだろう。
やがて、アルフォートはよろよろ覚束ない足取りで立ち上がった。
顔色が死人のように真っ白で血の気を失っている。
「叔父貴。俺、帰るわ。エステイアには慰謝料とかそういうのは実家のマーリンに請求してって言っといて」
「おい、どこへ行くつもりだ!?」
「旅でも出るわ……もう生きるのが辛い……」
そのまま、ふらふらしながらも、崩れかけていた岩の壁にぶつかりながら洞窟を出ていった。
テレンスたちがここに合流するとき崩した岩の先は入口に通じている。
「おい、アルフォート! 外はまだ黒竜が!」
「行かせてやりなよ。今は入口を出た辺りにドラゴンの気配がないから下山するなら今だろうし」
止めようとしたカーティスをヨシュアが更に止めた。
余談だがアルフォートはその後、本当に旅に出てしまったようでプリズム王国には生涯帰ってこなかった。
失意のまま、どこで生きて人生を終えたのかも謎のまま人々の記憶から消えた。
「そんなに公爵家の男が甘いわけがない。誠意を見せるため真実を話したのだろうが……。ふん、これからのあの男がどう動くか見ものだな」
さて、と呟いてテレンスは今度は反対側の娘とその元彼もどきがいるほうの空間に術を使った。
『セドリック。今、私たちしかいない。だから聞かせて。……私のこと、どう思ってる?』
こちらはこちらで、何だか甘ったるい雰囲気だった。