転生先は悪妻~旦那様はお呼びじゃないの~

第7話 さようなら、旦那様

「大丈夫か、エミリア」

 別棟から出ると、オリヴァーが私の手を取る。傍目(はため)からはエスコートをしているように見えるだろう。
 本当は私の肩を掴みたいのに、それができないからしている仕草だった。そう、私はまだオリヴァーに気持ちを伝えていないのだ。

「えぇ。むしろ、肩の荷が下りたような気分だわ」

 前世の記憶が戻っても、旦那様と会話をしたのが、たった二回だったけど。愛人が邸宅内にいるというのは、思った以上に負担だったらしい。

 紛らわすように仕事をしていたのにな。私もまだまだね。それとも、私の中のエミリアがそうしているのかしら。
 ならばちゃんと言わないと。

 憲兵に連行される、金髪の男に向かって私は言った。

「さようなら、カルム。もう二度と会わないことを祈るわ」
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