病んじゃう私と幻覚JK

憑いちゃう私

あれから私はことあるごとに、薬に頼るようになっていた。必然的に、彼女が私の身体に滞在する時間が長くなっていった。
もはやこの沙夜という機体は、どちらが操縦士か分からないぐらいにはなっていた。

そして悲劇は起こった。  

あれは、高校生活最大の山場マラソン大会を来週に控えた時のことだ。
「沙夜、走るのダルいよねー。」
桃香が机に突っ伏して気だるそうに呟く。
確かにうちのマラソン大会は他校より気合いが入っている。10km走らなければならないし、なにより坂が異常に多い。
特に今週は、マラソン大会に向け、毎日10km走らされる。
沙夜は走ることが運動の中で1番苦手だ。
(生理を理由にしてバックれちゃおっかな)
ずっとそう思っていた沙夜は突然閃いた。

その日学校を終えると、いつも以上にダッシュして家路を急いだ。
そして、自分の部屋に駆け込むと机の引き出しを開いた。
「...まだあった。」
沙夜はありったけの薬をブリスターパックから手のひらに出し、一気に水で飲み込んだ。

いつものように"彼女"を呼び出した。
心なしかやつれているように感じる彼女は、いつもよりゆっくり私の体内に吸収されていった。

どのくらい眠ったのだろう。
いや、正確には彼女が肉体を動かしているが。
次に目を覚ました時には1時間ほどフワフワしていた。やっと正気を保って、買ったばかりのスマホに目をやると、2週間ほど経過していた。
「やった。マラソン終わった。」
沙夜が小さく呟くと、視界の端に何かを感じた。
「あっ、私が使おうとしてたやつだ。」
そこには、沙夜が○のうとした際に購入したぶら下がり健康器とクレモナロープで作成した簡易装置で、首を吊っている彼女がいた。
彼女は少し笑っていた。
この生きづらい世の中とお別れできたからだろうか。

登校時間になり、沙夜が久しぶりに教室に入ると、いつもよりよそよそしいクラスメイトがそこにいた。
「久美おはよー!今日早いね!」
沙夜が挨拶すると、久美は訝しげな表情を浮かべた。
「お...おはよー。大丈夫?」
沙夜が不審に思うと、今度は桃香が教室に入ってきた。
「おっはー!あ、さ...や。来てたんだ。」
いつもと明らかに違う様子の桃香が、こちらを警戒しているかのように席に座る。
いったい何があったんだ。

久美にしつこく聞いてまわる。
「沙夜、ホントに昨日のこと覚えてないの?」
「え?何のこと?」
「昨日突然暴れたじゃん!こんな世界無くなれば良いのにって。」

沙夜はすぐピンときた。
"彼女"は首を吊っていた。
どうして気付いてやれなかったんだろう。
薬の量が多くなる度にボロボロになる彼女の姿に。
普通ならここで薬を辞めるのだろう。
しかし沙夜は違った。
彼女に申し訳なさを感じながら、薬の量を減らし、依存してしまう。

勿論、この後に事件が起こることを、沙夜は知る由もなかった...。
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