婚約破棄される令嬢の心は、断罪された王子様の手の中。
「いいえ。待たないわ。チェーザレ……これから、断罪を始めるわ。お願いします」

 私は彼の言葉を鼻で笑って振り返った。今更、婚約破棄をしようと思って居た婚約者に、何を言うことがあると言うのよ。

「……誰だ?」

 私の隣には、水色の髪を持つ貴公子チェーザレ。ジェレミアは彼のことを知らなくて、不思議そうだった。

 知らなくて当然だった。私も……彼の両親だって、ジェレミアには関係ないように伝えないようにしていたもの。

「こちらは、トリエヴァン帝国の皇帝チェーザレ・エラザスよ。私の母側の従兄弟なの。この前に即位したばかり」

「皇帝……トリエヴァン帝国の」

 ジェレミアは息をのんだようだった。それもそのはず。ウィスタリア王国は大陸の半分を占めるトリエヴァン帝国に比べると、国力が違い過ぎる。

 友好的な関係にあるとは言え、何が戦争の火種になるかなんてわからない。

 即位式には彼の両親が出席して、ジェレミアは留守番をしたから、チェーザレの顔を見るのはこれが最初のはずだ。

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