人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 お陰で毎日違う服を着ているんじゃないかと、錯覚してしまうほどだった。とはいえ、一着一着、ユベールが丹精込めて作っている服を蔑ろにはしたくない。

 だから私は意を決して、首を横に振る。すると、同じ柄のリボンが床の上に落ちた。

 人形だから血が出ることはないけれど……。

「ユベール。私の顔はどうなっていますか? 擦りむいていないでしょうか」

 上を向いて、ちょっと確認してもらおうと思ったら、急に体を持ち上げられた。さらにユベールの顔が近づき、私は咄嗟に身を引いた。

「っ! ごめん!」
「いえっ! 私の方こそ、すみません」

 ちょっと傷つけちゃったかな、と思って視線を向けると、再び目が合って逸らす。これではいつまで経っても確認できなかった。

「ユベール。その、鏡のあるところまで連れて行ってもらえませんか? 自分で確認するので」
「えっ、大丈夫。ちゃんと見るから」

 それでも気恥ずかしかったのか、今度はテーブルの上に私を置いた。
 最初に手を取られ、次は足へ……。けれどスカートで見えない。

「こっちは自分で見ます!」

 私は急いで後ろを向いて、スカートをたくし上げた。うん。擦りむいていない。
< 113 / 230 >

この作品をシェア

pagetop