人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「もうやらなくていいのよ。勉強も、生きることさえも」

 苦しさのあまりしゃがみ込んだ瞬間、閉じた瞼から何滴も涙が零れた。次から次へと、止めどなく床を濡らす。
 しかし、嗚咽(おえつ)は漏れなかった。

『声を出して泣くなんて、みっともない』『置かせてもらっている分際で』

 マニフィカ公爵家に来た時に言われた言葉の数々。
 たった五歳の子どもが手に入れた幸運に嫉妬して、口さがのない使用人たちが、わざわざ嘲笑(あざわら)いにやってきていたのだ。いや、それは今も変わらない。

 公爵家にもなると、使用人を取り仕切っている者は、同じ貴族であるため、私みたいな子どもは格好の餌食(えじき)だった。
 あわよくば、自身の娘をヴィクトル様の婚約者。または愛人にでもして、お(こぼ)れをもらいたい。そんな野心を抱く者たちにとって、私は邪魔な存在だったのだ。

「一週間後には死ぬのに、あんな人たちの言葉に従うなんて」
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