人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 二度目となる外出も、ワクワクよりドキドキの方が(まさ)っていた。それは鞄の中から外を眺められないからだろう。私は未だ、自分の住んでいる家の外観も見たことがないのだ。

 だから、街までの道のりも風景も分からない。それが緊張と不安を増やす要因となっている。
 とはいえ、十五歳の少年が人形を持って街中を歩くのは……ちょっと。いくらユベールが人形の服などを作っていても、だ。

 考えただけでもゾッとしてしまう。
 自分のせいでユベールを、そんな偏見の目で見られるような人にしたくない。絶対に。

 だから我慢しないと。

「リゼット。少し騒がしくなるけど、驚かないでね。今から商店街に入るから」

 私は一度目の外出と同じように、内側から鞄をトン、と叩いた。前回の教訓として、はいは一回。いいえは二回、と(あらかじ)め決めておいたのだ。

 しばらくすると、ユベールが言った通り、人のざわめき声が聞こえてきた。途端、さらに緊張感が増す。
 前回は朝だったことと、祭りが終わった直後だったことが重なり、人の声はあまりしなかったからだ。

 思わず鞄の裏地を握り締める。すると、その反応がユベールにも伝わったのか、(なだ)めるように軽く鞄を叩かれた。
< 120 / 230 >

この作品をシェア

pagetop