人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
 再び鞄の中に入れられた私は、ホッと息をつく。しかし油断をするにはまだ、早かった。何せ、もう一箇所、寄る所があるのだ。

「できれば荷物を持ったまま、行きたいんだけど、いい?」

 コン!

「ちょっと変な……いや、困ったお客様だから、忙しいって言って早めに切り上げたいんだ」

 コンコン!

「え? ダメ?」

 コンコン。

「違うの? う~ん。やっぱりこれだと難しいな」

 確かに。私ができるのは、鞄を叩くことのみ。それも二種類しかないのだ。
 さっきだって、私はただ、困ったお客様でも真摯に対応して、という意味で二回叩いたんだけど……全く伝わらない。

「本当に難しい」

 溜め息と一緒に声が漏れた。幸いにも、商店街のざわめき声で、私の小さな声は掻き消されていたらしい。ユベールからお咎めがなかったのが、その証拠だった。が、その数分後。

「もうそろそろ着くから、静かにね」

 (たしな)められた。
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