人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「まぁ、とにかく上がってくれ。シビルを呼んでくるから」
「ありがとうございます」

 遠ざかっていく音と共に、段々と近づいてくる小走りの音。後者の音は、どこか軽やかに聞こえた。

「ユベール! ようやく来てくれた。ずっと待っていたんだからね!」
「ごめん」
「ブリットさんにちゃんと頼んだのか、お父様に聞いても「頼んだ」の一点張りだし。ブリットさんのところへ行こうとしたら――……」
「行ったのか!」

 驚くユベールの大きな声に、体がビクッとなる。思わず口に出ていないか心配になり、両手で塞いだ。

「代わりにお母様が、ね」
「……はぁ。僕も暇じゃないんだ。頻繁にブリットさんのお店に行けるわけがないのは知っているだろう?」
「だから、あんな辺鄙(へんぴ)なところじゃなくて、ウチに住めばいいって言っているじゃない」
「あそこは父さんと母さんの思い出が詰まっている家なんだ。別のところになんて……簡単に言わないでくれ」

 言葉の端々に怒りの感情が垣間見える。一応、抑えているのだろうけれど……聞いているだけで、息苦しくなった。

 自分に向けられていなくても、使用人たちから受けていた精神的攻撃を思い出したからだ。私はグッと唇を結んだ。
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