人形にされた伯爵令嬢~婚約破棄された落ちこぼれ魔術師は時を越えて幸せを掴む~
「さっき、シビルの話をしただろう。どうなったのか、とか」
「うん。無事なの?」
「……一応、ね。ただ問題があるんだ」

 ユベールが口籠ると、バトンタッチをするかのようにサビーナ先生が続きを教えてくれた。

「あることないことを吹聴(ふいちょう)しているのよ。多分、自分だけ火傷をしているのから、その腹いせなんでしょうけれど」
「え? でもユベールは……」
「そう。リゼットも含めて火傷をしていないわ。だからこそ、怒りが収まらないって感じだったわ」
「自分でしておいて!?」
「あら、リゼットも言うようになったわね」
「っ! それは……その……」

 あまりにも身勝手な行動に、思わず本音が口から飛び出ていた。サビーナ先生の言う通り、昔ではあり得ないくらいの言動だと、私も思う。

 なにせあの頃の私は、自分のことで手一杯になりすぎて、他のことまで手が回らない。
 少しでも陰口を叩かれないように、不快な想いをさせないように、と過敏になっていたのだ。自分の気持ちを表に出せない程に。

 だから余計、シビルの行動が衝撃的だった。けれどこれは、まだ序の口であることを私は知らない。

 何故、ユベールとサビーナ先生が呆れたような、疲れたような表情をしたのか。
 私はその意味をこれから思い知ることになるなんて……この時はまだ、分かっていなかった。
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